1998年3月5日、
講談社X文庫ティーンズハートより発売された
小泉まりえ著『あたしのわがままを聞いて...』。イラストはあの『美少女戦士セーラームーン』で知られる
武内直子氏が担当した、青春ラブストーリー小説である。
本書は、全一巻で完結する比較的短い作品ながら、主人公である亜子と陸の繊細な恋愛模様を丁寧に描き出している。二人の出会いは、何気ない日常の出来事から始まる。渋谷でのデートや、記念日の過ごし方など、誰もが経験するような場面を通して、二人の関係性が徐々に深まっていく様が克明に描写されている。
物語は、二人の幸せな時間だけでなく、すれ違いや誤解、そして葛藤も丁寧に描かれる。恋愛における喜びや苦しみ、そして成長といった要素がバランスよく配置されていることで、読者は登場人物たちの感情に深く共感し、まるで自分自身の青春時代を振り返るような感覚を覚えるだろう。
特に印象的なのは、タイトルにもなっている「わがまま」というテーマだ。亜子の素直で時にわがままな一面と、それを受け止めようとする陸の優しさ。この対比が、二人の関係性をより複雑で魅力的なものとしている。恋愛における自己表現の難しさや、相手への思いやりといった普遍的なテーマが、現代の若者にも響く作品となっている。
また、
本書の構成は、各章が「恋愛の期限」「渋谷でデート」「しあわせの法則」「突然の裏切り」「白い雪のように」「すれ違うハート」「わがままを聞いてくれますか?」「ふたりの記念日」「二度目の恋愛に必要なもの」といった、恋愛における重要な局面を切り取ったようなタイトルになっている。この構成は、物語全体のテンポを良くし、読者の興味を引きつけながら、物語をスムーズに進めていく役割を果たしている。
武内直子氏によるイラストも、
本書の魅力の一つだ。繊細で美しいイラストは、物語の世界観をさらに豊かにし、登場人物たちの感情を視覚的に表現する役割を担っている。特に、二人の心情を表す場面では、イラストが物語の理解を深める上で大きな助けとなっているだろう。
『あたしのわがままを聞いて...』は、甘酸っぱい青春時代と、ちょっぴり切ない恋愛模様を描いた、心温まる一冊である。若者たちの等身大の感情が丁寧に描かれており、共感できる部分も多いだろう。恋愛小説としてだけでなく、青春小説としても楽しめる作品なので、幅広い年齢層の読者におすすめできる。単巻で完結する手軽さも魅力の一つだ。
本書の情報は以下の通り。
タイトル:『あたしのわがままを聞いて...』
著者:
小泉まりえ
イラスト:
武内直子
出版社:
講談社
レーベル:
講談社X文庫ティーンズハート
発行日:
1998年3月5日
ISBN:4-06-199776-9