あたりまえの映画

『あたりまえの映画』（原題：Un film comme les autres）は、1968年5月から7月にかけて、フランスで制作されたドキュメンタリー映画です。 この作品は、その年の5月に発生した五月革命という激動の時代を背景に、ジャン＝リュック・ゴダール率いる「ジガ・ヴェルトフ集団」によって生み出されました。

タイトルの『あたりまえの映画』は、一見すると何の変哲もないように見えますが、実際は意図的なパラドックスです。作品の内容は、当時、学生運動が活発だったナンテール大学の学生や、ルノー・フラン工場の労働者たちといった人々の、革命への参加や熱意を映し出しています。 彼らが革命に身を投じていく姿、そして、フランス共和国保安機動隊（CRS）との衝突といった、五月革命の緊迫した状況が克明に記録されています。

撮影には、イーストマンコダックのエクタクロームカラー16ミリフィルムが使用され、ゴダール自身とウィリアム・リュプチャンスキーがカメラを回し、ソルボンヌ大学、バリケード、機動隊との衝突現場など、様々な場所で撮影が行われました。 さらに、ARC集団が同時期に撮影した白黒フィルムのアーカイヴ映像も作品に組み込まれています。 これら多様な映像素材が組み合わさり、五月革命の多角的な側面が映し出されています。

ゴダールは、この作品で監督と脚本、そして編集を担当しました。 単独での演出である一方で、この作品はジガ・ヴェルトフ集団名義の最初の作品として発表されました。 ジガ・ヴェルトフ集団は、ゴダールとジャン＝ピエール・ゴランによって同年に結成された映画製作集団です。この集団の活動は、従来の映画制作の枠を超えた実験的な試みとして注目を集めました。

『あたりまえの映画』は、ゴダールの他の作品とは異質な雰囲気を持っています。これは、ゴダールが五月革命という歴史的瞬間に直面し、その現実をありのままに記録しようとしたからでしょう。 革命の熱狂、混乱、暴力、そして人々の葛藤といった様々な要素が、ゴダール独自の視点と編集によって、見る者に強烈な印象を与えます。

現在、この作品の版権はゴーモンが管理しています。2006年には、パリのポンピドゥー・センターで開催されたゴダール展で、ゴーモンによる新しいプリントが上映され、再び多くの人々の目に触れる機会がありました。 この上映は、この歴史的なドキュメンタリー作品を後世に伝える上で重要な役割を果たしています。

『あたりまえの映画』は、単なる革命の記録映画ではなく、ゴダール自身の思想や芸術表現が凝縮された作品です。 ゴダールの革新的な映像表現、そして五月革命という歴史的文脈を理解することで、この作品の魅力をより深く味わうことができます。 五月革命を理解する上でも、ゴダールの映画作品を理解する上でも、重要な作品と言えます。 この作品を通して、1968年のフランス、そしてゴダールのクリエイティビティを垣間見ることができるでしょう。

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