ジガ・ヴェルトフ集団

ジガ・ヴェルトフ集団：ゴダールと仲間たちの政治的映画運動

1968年から1972年にかけて活動したフランスの映画作家集団、ジガ・ヴェルトフ集団。ヌーヴェルヴァーグの中心人物、ジャン＝リュック・ゴダールが「政治の時代」と称した時期に、政治的メッセージを込めた映画制作に携わったことで知られています。本稿では、この集団の活動内容、メンバー、代表作、そして解散に至る経緯を詳細に解説します。

集団の誕生と理念

1968年、ゴダールをはじめとする政治的に活動的な映画作家たちによってジガ・ヴェルトフ集団が結成されました。集団名は、ソ連の革命期に活躍した映画作家ジガ・ヴェルトフに由来しており、その先鋭的な実験精神と政治的意識を継承する意思を示しています。彼らの作品は、ベルトルト・ブレヒトの演劇理論の影響を受けた手法、マルクス主義的イデオロギー、そして個人作家性の排除という特徴的な要素で定義づけられます。集団制作による匿名性を重視し、作品を通して政治的メッセージを訴えかけることを目的としていました。

代表作と活動内容

ジガ・ヴェルトフ集団は、9本の映画を製作しました。その中には、のちにゴダール自身の代表作となる作品も含まれています。主な作品を以下に挙げます。

『あたりまえの映画』(Un Film comme les autres, 1968): 集団結成当初の作品。
『ブリティッシュ・サウンズ』(British Sounds/See You At Mao, 1969): イギリス社会への視点が示された作品。
『プラウダ』(Pravda, 1969): ソ連の真実を問う作品。
『東風』(Le Vent d'est, 1969): 東アジアを舞台にした政治的状況を描いた作品。
『イタリアにおける闘争』(Luttes en Italie, 1969): イタリアの政治闘争を映し出した作品。
『勝利まで』(Jusqu'à la victoire, 1970): パレスチナ解放闘争を描いた作品。撮影途中で中断された。
『ウラジミールとローザ』(Vladimir et Rosa, 1971): ロシア革命の指導者を描いた作品。
『万事快調』(Tout va bien, 1972): ゴダールとアンヌ・ヴィアゼムスキー共演による社会風刺劇。
『ジェーンへの手紙』(Letter to Jane, 1972): ジェーン・フォンダへの手紙を題材にした作品。この作品を最後に集団は解散しました。

『勝利まで』は、作品の内容に沿って撮影が続けられず、パレスチナ解放機構のメンバーが殺害されたことで制作が中断されました。この未完成作品は、後にゴダールが自身の作品『ヒア＆ゼア こことよそ』で再構成・考察されています。この作品においてゴダールは、ジガ・ヴェルトフ集団の制作方法やその理念自体に疑問を呈しています。

メンバーと役割

ジガ・ヴェルトフ集団は、ゴダールを中心に、多くの映画作家や活動家が参加しました。主なメンバーは以下の通りです。

ジャン＝リュック・ゴダール: 監督、脚本、撮影など、ほとんどの作品に多様な形で関与。
ジャン＝ピエール・ゴラン: ゴダールと多くの作品を共同制作。
ジャン＝アンリ・ロジェ: いくつかの作品で監督、脚本を担当。
ポール・ビュロン: 『プラウダ』に参加。
ジェラール・マルタン: 『東風』の監督を務めた。
ダニエル・コーン＝バンディ: 五月革命の指導者として知られる人物。『東風』の脚本、出演。
セルジオ・バッツィーニ: 脚本家として参加。
アンヌ・ヴィアゼムスキー: 複数の作品に出演。
ジュリエット・ベルト: 『ウラジミールとローザ』に出演。
* ジェーン・フォンダ: 『万事快調』、『ジェーンへの手紙』に出演。

集団は匿名性を重視し、作品は集団名義で発表されました。そのため、それぞれのメンバーの役割を明確に区別することは困難です。

解散とその後

ジガ・ヴェルトフ集団は1972年、『ジェーンへの手紙』の完成後に解散しました。集団の活動は短期間でしたが、その革新的な映画制作手法と政治的メッセージは、現代映画にも大きな影響を与え続けています。ゴダール自身も、この集団での経験を基に、後年の作品制作へと繋げていきました。

まとめ

ジガ・ヴェルトフ集団は、ゴダールらによる政治的映画制作の試みとして、重要な位置を占めています。その活動は短命に終わりましたが、現代映画史において、実験的な映画表現と政治的映画のあり方を探求した貴重な事例として記憶されています。彼らの作品は、現在でも様々な解釈と議論を呼び起こし、その影響は尽きることがありません。

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