あなたがいたら/少女リンダ

『あなたがいたら／少女リンダ』：奔放な少女の青春と成長の物語

1987年公開のイギリス映画『あなたがいたら／少女リンダ』（原題: Wish You Were Here）は、戦後イギリスの海岸沿いの田舎町を舞台に、自由奔放な16歳の少女リンダの成長物語を描いた青春ドラマです。退屈な日常に反抗し、型破りな行動を繰り返すリンダの姿は、ユーモラスでありながら、思春期の葛藤や孤独、そして性の目覚めといった普遍的なテーマを鮮やかに浮き彫りにしています。

型破りな少女と周囲の人々

主人公リンダは、地元の名士である父親と、真面目な妹マーガレットと共に暮らしています。彼女は美容学校の訓練生として学びますが、型破りな性格ゆえに退学処分となってしまいます。その後、様々な職に就きますが、どれも長続きせず、父親との関係も険悪です。リンダは、周囲から浮いた存在として扱われ、孤独を抱えながらも、明るく振る舞うことでその心を隠そうとします。しかし、一人になると、亡き母親を思いながら涙を流す一面も持ち合わせています。

リンダは、ボーイハントに熱中したり、中年男性エリックと危険な関係に身を投じたりするなど、衝動的で予測不能な行動を繰り返します。その行動は、父親との不和や、抑圧された環境への反発として解釈できます。エリックとの関係は、リンダの精神的な不安定さを反映していると言えるでしょう。

一方、リンダの父親ヒューバートは、娘の奔放な行動に戸惑いながらも、どこかで娘を案じている様子がうかがえます。また、リンダの叔母ミリーは、唯一リンダを理解し、温かく見守る存在として描かれています。これらのキャラクターは、リンダの成長に様々な影響を与え、物語に深みを与えています。

イギリスの独特の雰囲気とユーモア

映画全体からは、戦後イギリスの田舎町の独特の雰囲気が漂っています。高貴なティールームでの大騒動や、少女の衣装でタップを踊る老婆など、随所に散りばめられたユーモアは、イギリス映画特有の「上品なようでいてグロテスク」な雰囲気を醸し出しています。モンティ・パイソンを思わせるシニカルな表現は、物語に独特の味わいを与えています。

リンダ役のエミリー・ロイド

主演を務めたエミリー・ロイドは、撮影初日に16歳の誕生日を迎えました。彼女のキュートで瑞々しい演技は、役柄と見事に融合し、話題を呼びました。しかし、この作品での成功は、彼女にとって「祝福でもあり、呪いでもあった」と、後に語っています。リンダ役は、彼女の女優人生に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

物語の結末とテーマ

エリックとの関係に終止符を打ち、ティールームで働くようになったリンダは、妊娠していることを知ります。経済的な問題を抱え、堕胎も考えますが、最終的には子供を産んで育てようと決意します。そして、生まれたばかりの子供を抱いて故郷に戻ったリンダは、以前とは異なる、自信に満ちた表情を見せています。

この映画は、思春期の少女の成長と葛藤、そして家族や社会との関わりを描いています。リンダの奔放な行動は、社会の制約や期待への反発であり、自己肯定への模索でもあります。そして、彼女は、困難な経験を経て、自分自身の道を切り開いていきます。

日本での公開と反響

日本においても、『あなたがいたら／少女リンダ』は、東京国際映画祭で上映されたのを皮切りに、高い評価を受けました。松任谷由実のミュージックビデオに使用されたことなども話題を呼び、広く知られる作品となりました。

この映画は、単なる青春映画としてだけでなく、社会や家族、そして個人の成長といった普遍的なテーマを考えさせる作品です。イギリスの独特の雰囲気と、個性的なキャラクター、そしてエミリー・ロイドの素晴らしい演技が、この映画を忘れられないものへと昇華させています。

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