あやかしの鼓

あやかしの鼓

『あやかしの鼓』（あやかしのつづみ）は、夢野久作による中編小説であり、1926年（大正15年）に発表されました。この作品は、同年10月号の『新青年』に掲載され、夢野久作名義で書かれた彼の初めての作品でもあります。

あらすじ

物語は、約100年前に遡ります。とある鼓職人が、愛する綾姫に対する未練を込めて、一つの鼓を作り上げます。その鼓は、樫の木から作られたもので、彼の情熱が詰まった作品でした。しかし、この深い情念は次第に呪いの形を取り、鼓に関わった人々は不幸な死を遂げることとなります。そのため、この鼓は次第に「あやかしの鼓」という異名で呼ばれるようになりました。

時は流れて、大正時代の東京に舞台が移ります。主人公である音丸久弥は、病床の父から不吉な運命にまつわる因縁について語られます。父は、かつてこの世に存在した「あやかしの鼓」について触れ、実は自分たちの先祖である鼓製作の職人がそれを作ったことを告げます。さらに、父は彼に「絶対に鼓を習おうとせず、触れるべきでない」と忠告し、そのまま息を引き取りました。しかし、久弥は運命に抗えず、鼓との出会いによって因果の連鎖へと巻き込まれていくのです。

形態

本作品は、音丸久弥の遺書という形式で進行します。この独白体は、『死後の恋』や『悪魔祈祷書』など、夢野久作の他の作品にも見られる手法であり、非常に効果的に用いられています。また、書簡体形式と並ぶ手法として、独白体は夢野作品において注目される一つのスタイルとなっています。

評価

当時の『新青年』の懸賞選考委員として知られる江戸川乱歩は、1926年6月号で本作品について次のように評価しました。「これはどうも私には感心出来ません。他の人々が第一の佳作として推奨していると聞いて、少々意外に思ったほどです」と述べ、他の選考委員が高く評価する中で、彼自身は低評価を下しました。ここからも作品が持つ二面性や評価の難しさが浮かび上がります。

結論

『あやかしの鼓』は、情念と運命が絡まる中で引き起こされる悲劇を描いた作品です。夢野久作独特の幻想的な世界観と、因果の法則に対する考察が織りなす物語は、読者に深い印象を残します。

参考文献

• - あやかしの鼓 - 青空文庫

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