ある優しき殺人者の記録

ある優しき殺人者の記録：緻密に計算された狂気と、その背後にある哀しみ

2014年、日本と韓国で公開された白石晃士監督によるサスペンススリラー映画『ある優しき殺人者の記録』。本作は、POV（一人称視点）形式のモキュメンタリーとして、86分間ノーカットで撮影されたという、その大胆な手法で注目を集めました。観客は、まるで事件の当事者になったかのように、息詰まる展開を体験することになります。

白石監督は、ヒッチコックやデ・パルマへのオマージュとして、映像表現によるスリルの追求を本作で試みています。舞台となるのは、廃墟と化したマンションの一室。限られた空間の中で、物語は目まぐるしく展開し、観客の緊張感と好奇心を常に刺激し続けます。

この映画の制作は、韓国のプロデューサーからの依頼がきっかけでした。韓国映画界で低予算作品は珍しい中、プロデューサーの進歩的な姿勢に共感した白石監督は、韓国でのロケを敢行。監督作品としては珍しく、美しいエンディングを迎える本作ですが、これはプロデューサーの意向と、監督自身の『素晴らしき哉、人生!』への想いが反映されていると言われています。

物語の中心は、18人の殺人を犯した容疑者、パク・サンジュンです。彼は幼馴染のジャーナリスト、ソヨンを廃マンションに呼び出し、そこに同行したカメラマン、田代と共に、自身の「計画」を記録させることを強要します。サンジュンは、10歳の時に事故で亡くなった幼馴染を生き返らせるため、神の声に従って殺人を犯していると主張。その不可解な計画は、観客の想像をはるかに超えた、狂気と悲しみが入り混じったものです。

サンジュンの語る「神の声」と、彼の計画を実行に移していく様子は、観客に強烈な衝撃を与えます。計画に巻き込まれる日本人カップル、凌太とツカサの登場も物語にさらなる緊張感をもたらします。彼らは、一見危険な状況を楽しんでいるかのように振る舞いますが、その背景には何があるのでしょうか。

登場人物たちは、それぞれ複雑な背景と動機を持っています。サンジュンは、幼い頃のトラウマと、歪んだ救済願望に苦しむ人物。ソヨンは、かつてサンジュンと幼馴染だったユンジンの親友として、彼を救おうとしますが、事態は思わぬ方向へと進んでいきます。そして田代は、『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズにも登場する、監督いわく「同一人物」です。これらのキャラクターたちが織りなす人間ドラマは、単なるホラー映画の枠を超え、人間の深層心理に迫る重厚な内容となっています。

『ある優しき殺人者の記録』は、白石晃士監督の卓越した演出と、俳優たちの熱演、そして予測不能な展開によって彩られた、傑作スリラー映画です。観客は、映画の終わりまで、サンジュンの狂気に翻弄され続け、そして、彼の行動の背後にある哀しみに心を揺さぶられることになるでしょう。単なる殺人事件を描いた映画ではなく、人間の心の闇と、救済への切ない願いを浮き彫りにした、忘れがたい作品と言えるでしょう。

主要スタッフは、監督・脚本を白石晃士氏、撮影監督をソン・サンジェ氏、編集をキム・ムンピョ氏、照明をイ・ソンファン氏、VFXをiZ inc.が担当。プロデューサーは紀嘉久氏とチェ・ユリ氏、製作総指揮は杉原晃史氏とイ・ウンギョン氏が務めました。2015年にはDVDとBlu-ray Discコレクターズ・エディションが発売されています。

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