あん (小説)

小説『あん』の概要

『あん』は、2013年2月にドリアン助川によって発表された小説であり、教育機関での読書感想文コンクールでも指定図書に選ばれるなど、幅広い支持を受けています。2015年には河瀬直美監督により映画化され、多くの賞を受賞しました。物語は、どら焼き屋『どら春』に集まる人々の心温まる交流を描いています。

あらすじ

春のある日、桜が舞う公園の近くにあるどら焼き屋『どら春』では、主人公の千太郎が雇われ店長として働いています。千太郎は辛い過去を抱えており、無愛想で人との接触を避けがちな性格。しかし、彼の日常は、ある老婦人の訪問によって一変します。その女性、徳江は、手の不自由さを抱えながらも、長年にわたり愛情を込めてあんを作り続けてきた人物です。依頼した当初はかなりあっさりと断られてしまいましたが、彼女が差し出す手作りのあんを舐めた千太郎は、その素晴らしい味に心を動かされます。

徳江を雇うことにした千太郎は、彼女が作るあんを使ったどら焼きを販売し始めます。すると、瞬く間にそのどら焼きは評判を呼び、多くの客が来店するようになります。しかし、徳江の過去に関わる噂が立つと、店のオーナーは彼女を解雇するよう千太郎に迫ります。この厳しい現実に千太郎は苦悩し、最終的には徳江が店を去ることになります。その後、千太郎の心の葛藤は、彼をアルコールに逃避させてしまうのです。彼の心の中で、徳江への負い目が大きくなっていきます。

さらに物語は、千太郎の常連客である中学生ワカナが彼を促し、ハンセン病に関連する隔離施設を訪れる場面へと進みます。そこで千太郎は、自身が追いつめてしまった徳江の真摯な思いを理解し、彼女と向き合うことになります。

映画化と受賞歴

小説『あん』は、その後映画化され、2015年に公開されました。日本・フランス・ドイツの共同制作によるこの映画では、樹木希林が徳江役を演じ、映画自体も高い評価を受けました。第68回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に正式出品されたのをはじめ、トロント国際映画祭でも北米プレミア上映が行われました。映画は多くの賞を受賞し、特に樹木希林の演技は絶賛されました。

登場人物

• - 吉井徳江（演・樹木希林）: 76歳の老婆で、あん作りに人生を捧げています。手の不自由さを気にしつつも、自身の作るあんには絶対の自信を持っています。
• - 千太郎（演・永瀬正敏）: どら焼き屋『どら春』の雇われ店長。無愛想ですが、徳江との出会いを通じて成長していきます。
• - ワカナ（演・内田伽羅）: 千太郎の店の常連中学生。彼を支え、何度も力を貸します。

この作品は、人生の辛さや人との絆、贖罪の過程が繊細に描かれ、読む者を深く考えさせる力を持っています。映画もまた同様に、その温かいメッセージは多くの人々の心を掴んで離しません。

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