あんたの背中

あんたの背中

「あんたの背中」（あんたのせなか）は、日本の歌手、三橋美智也によって1976年8月にリリースされたシングル盤です。このシングルは、その制作過程において非常にユニークな背景を持つことで知られています。

楽曲の背景

このシングルに収録された楽曲は、両面ともに一般からの公募によって選ばれた作品です。特に、作詞家として広く知られる阿久悠氏が、当時スポーツニッポン紙上で連載していたコラム『阿久悠の実戦的作詞講座』において募集した作品の中から、優秀作として選ばれたものが採用されました。この企画は、一般の人々が作詞に挑戦する機会を提供するとともに、プロの視点からその可能性を探る試みであり、「あんたの背中」とB面の「リンゴがお酒になるように」は、まさにその講座が生んだ成果と言えます。

阿久悠氏は、このコラムを後に書籍としてまとめるにあたり、三橋美智也という歌手、そして彼が歌うことの意義について特別な思いを記しています。彼は、もし楽曲のテーマが故郷であるならば、単に現実を写すのではなく、歌い手や聴き手の心の中に生き続ける「おおらかな故郷」を描いてほしいと語っています。そして、他の歌手であればもしかすると滑稽に聞こえたり、非現実的だと受け取られたりしかねないような表現であっても、三橋美智也が歌えば、それは彼の持つ豊かな表現力と独特の世界観によって許容され、彼の個性として成立するのだと高く評価しています。阿久氏のこの言葉からは、当時の三橋美智也が、一般的な演歌や歌謡曲の枠を超えた表現力を持つ歌手として、多くの人々に認識されていたことがうかがえます。

ジャケット

シングルのジャケットデザインもまた特筆すべき点です。ジャケットを飾る絵は、日本の著名なイラストレーターである林静一氏が手掛けました。林氏は、ロッテのロングセラー商品である『小梅』のキャラクター「小梅ちゃん」のデザインで広く知られているほか、叙情的でどこか懐かしい雰囲気を持つ独自の画風で多くのファンを持っています。彼の描く繊細かつ情緒的なイラストが、このシングルの持つ叙情的な世界観、特に心の中にある故郷といったテーマと見事に結びつき、視覚的な面からも楽曲の魅力を引き立てています。

収録曲

このシングルには、以下の2曲が収録されています。両曲とも作曲および編曲は川口真氏が担当しています。

1. あんたの背中
作詞: 福田一三
作曲・編曲: 川口真
2. リンゴがお酒になるように
作詞: 島田幸一
作曲・編曲: 川口真

両楽曲は、いずれも阿久悠氏の作詞講座を通じて選ばれた一般公募作品であり、当時の歌謡界における新しい才能の発掘や、一般の人々の感性を楽曲制作に取り入れようとする試みの一端を示すものと言えるでしょう。また、三橋美智也という表現者が、そうした多様な背景を持つ作品を見事に歌いこなすことで、自身の芸術性をさらに深めた一例とも考えられます。

「あんたの背中」シングルは、単なる楽曲の発表にとどまらず、作詞家の育成、異なる分野のアーティストとのコラボレーション、そして歌手自身の表現の可能性を追求した、当時の音楽シーンにおいても興味深い作品の一つとして位置づけられます。その背景を知ることで、改めてこの楽曲が持つ奥深さや、関わった多くの人々の情熱を感じ取ることができるでしょう。

もう一度検索