あゝ金沢城

あゝ金沢城

「あゝ金沢城」（ああかなざわじょう）は、昭和を代表する国民的歌手、三橋美智也によって1974年（昭和49年）に発表されたシングル盤レコードである。

この楽曲は、日本の伝統的な情景や文化をテーマにした「舞踊歌謡」シリーズの一環として制作された作品の一つに数えられる。歌の舞台は、加賀百万石の藩主前田家の居城として栄え、現在は石川県金沢市丸の内としてその威容を留める金沢城である。戦国時代から江戸時代にかけての歴史と、現代にも通じる金沢の美しい風情が主題となっている。

楽曲の構成には、特筆すべき点がある。A面として収録された表題曲「あゝ金沢城」には、歌謡曲としては珍しい詩吟が取り入れられているのである。この詩吟が、加賀百万石の歴史や金沢城が持つ荘厳な雰囲気を際立たせ、楽曲全体に深みと格調を与えている。三橋美智也の情感豊かな歌声と詩吟の組み合わせは、聴く者に金沢城の在りし日の栄華や、そこに流れる悠久の時を感じさせる。

歌詞の中には、金沢の象徴とも言える固有名詞が数多く織り込まれている。例えば、金沢城の外堀に清流を引き込んでいる「辰己の流れ」は、城の防御機構としての重要性と共に、水が豊かな金沢の自然を表す。城郭建築の一部である「石川門」は、金沢城の顔とも言える美しい櫓門であり、多くの人々に親しまれている場所である。「南坊」は金沢城内に存在したとされる施設に関連するものか、あるいはその周辺を指す可能性がある。また、「加越能」という言葉は、かつての加賀国、越中国、能登国という三つの令制国、すなわち現在の石川県と富山県に跨る広範な地域を指し、加賀百万石前田家の影響力や領地の広大さを示唆する。これらの具体的な地名や歴史的背景を持つ言葉が盛り込まれることで、楽曲は単なる情景描写に留まらず、金沢の歴史と文化への深い敬意を表現している。

シングルのB面に収録されたのは、「百万石の町」という楽曲である。こちらも「あゝ金沢城」と同じく金沢をテーマとしており、同年にはアルバム『唄めぐり 北から南、西東』にも収録されている。この「百万石の町」は、表題曲とはまた異なる角度から金沢を描いていると考えられる。金沢城下町の賑わいや、そこに暮らす人々の営み、伝統工芸である加賀友禅のような文化的な側面に光を当てている可能性があり、A面とB面で金沢の多面的な魅力が表現されていると言えるだろう。

「あゝ金沢城」の制作には、豪華な顔ぶれがクレジットされている。作詞は山崎桂花、作曲は馬場花子が手がけ、補作曲と編曲は白石十四男が担当した。白石十四男はB面曲「百万石の町」でも作曲と編曲を務めており、これらの楽曲のサウンドメイクに大きく貢献している。作詞を担当した横井弘と共に、金沢の情景や歴史を音楽に乗せる役割を担った。

この楽曲は、三橋美智也の歌声を通じて、金沢の歴史と文化、そして美しい自然を全国に伝えた作品として、現在も金沢を愛する人々の間で親しまれている。高度経済成長期に地方の歌が注目された時代において、「あゝ金沢城」は金沢の魅力を効果的に伝える役割を果たしたと言えるだろう。

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