横井弘

横井 弘

横井 弘（よこい ひろし）は、昭和時代に日本の歌謡界で多大な功績を残した作詞家です。1926年（大正15年）10月12日に東京府東京市四谷区の地で生を受け、旧制帝京商業学校で学びました。

彼の人生は、第二次世界大戦終結の混乱と深く結びついています。1945年5月25日の東京大空襲によって自宅を失い、被災します。同年6月には軍隊に召集され、初年兵として茨城県で沿岸防備の任務にあたりました。終戦を迎え軍隊から復員したものの、焦土と化した故郷に帰る家はありませんでした。知人を頼って家族と共に長野県下諏訪町へ移り住み、新たな生活を始めることとなります。

この長野での日々が、横井弘を作詞の道へと導きます。「これからは自分の好きな詩の道で生きていこう」と決意を固め、毎日、諏訪湖畔や周囲の山々を歩きながら詩作に没頭しました。その中で生まれた十数編の作品の中から、彼自身が最も気に入ったのが、八島ヶ原湿原で作られた「あざみの歌」でした。

1946年に東京へ戻った横井は、キングレコードに職を得ます。ここで作詞家の藤浦洸に師事し、作詞の技術を磨きました。彼は「あざみの歌」の歌詞をキングレコードの女子社員に託していましたが、その後の1948年には日本音楽著作権協会（JASRAC）に入職することになります。

「あざみの歌」は、1949年8月8日にNHKのラジオ歌謡で放送されると、その叙情的な歌詞が多くの人々の心を捉えました。そして、1951年8月には伊藤久男の歌唱でレコードが発売され、社会現象となるほどの大ヒットを記録します。この曲は、彼の作詞家としてのキャリアを確立する礎となりました。彼の原風景となった八島ケ原湿原には、「あざみの歌」の歌碑が建てられ、今も多くの人々に愛されています。

その後も、横井弘は精力的に作詞活動を続けます。1950年にはコロムビアの専属作詞家となり、1953年には再びキングレコードへ移籍。1968年からはフリーランスとして活動の幅を広げました。彼は生涯にわたり数多くのヒット曲を生み出し、特に三橋美智也とのコンビでは「哀愁列車」「おさらば東京」「赤い夕陽の故郷」「達者でナ」など、演歌・歌謡曲史に残る名曲を世に送り出しました。また、倍賞千恵子、春日八郎、ザ・ピーナッツ、中村晃子、美空ひばりなど、時代を彩る多くの歌手に作品を提供し、叙情歌、ムード歌謡、股旅演歌といった多様なジャンルでその才能を発揮しました。

その長年の功績は高く評価され、1974年には第16回日本レコード大賞において、作詞・作曲家としての功績を称える中山晋平・西條八十賞を受賞。1992年には第34回日本レコード大賞で功労賞を受賞しています。

2015年6月19日、肺炎のため88歳で死去。戦後の混乱期に芽生えた詩への情熱を生涯燃やし続け、日本の歌謡史に数多くの輝かしい作品を残した偉大な作詞家でした。

以下に、彼の代表的な作品の一部を挙げます。

代表曲（一部）

「あざみの歌」（1951年） 歌：伊藤久男
「哀愁列車」（1956年） 歌：三橋美智也
「おさらば東京」（1957年） 歌：三橋美智也
「銀座の蝶」（1958年） 歌：大津美子
「心の窓にともし灯を」（1959年） 歌：ザ・ピーナッツ
「達者でナ」（1960年） 歌：三橋美智也
「川は流れる」（1961年） 歌：仲宗根美樹
「下町の太陽」（1962年） 歌：倍賞千恵子
「さよならはダンスの後に」（1965年） 歌：倍賞千恵子
「虹色の湖」（1967年） 歌：中村晃子
「新宿波止場」（1971年） 歌：美空ひばり
「夕焼け雲」（1976年） 歌：千昌夫

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