いしゃ先生

『いしゃ先生』

あべ美佳の筆による長編小説『いしゃ先生』は、厳しい自然環境の中で僻地医療に生涯を捧げ、「仙境のナイチンゲール」と称えられた実在の女医、志田周子の波乱に満ちた生涯を描き出した感動作です。本作は、2013年5月から2015年2月にかけて『全国保険医新聞』に連載され、読者の心を打ちました。その後、加筆・修正を経て、2015年9月8日にPHP文芸文庫より単行本として刊行されました（ISBN 978-4-569-76416-0）。

物語の主人公、志田周子は東京女子医科大学を卒業後、当時の山形県大井沢村（現在の西川町大井沢にあたります）へ赴任します。当時、この村は「無医村」と呼ばれるほど医療体制が手薄な地域でした。そのような厳しい環境下で、周子は持ち前の情熱と不屈の精神で地域医療の確立に奔走します。孤立無援に近い状況の中でも、村の人々の命と健康を守るために献身的に働き続けた彼女の姿が、克明に描かれています。本作は、単なる伝記に留まらず、僻地医療の現実や、一人の医師が地域社会に根差し、貢献していくことの意義を深く問いかける作品となっています。

この小説は大きな反響を呼び、あべ美佳自身が脚本を手がけ、永江二朗が監督を務める形で映画化されました。主人公の志田周子役は俳優の平山あやが演じました。映画版は、小説の世界観を忠実に再現しつつ、映像ならではの表現で志田周子の生涯と大井沢村の情景を描き出しています。

映画『いしゃ先生』は、まず京都国際映画祭2015にて2015年10月17日に上映され、その後、物語の舞台となった山形県で2015年11月7日より先行公開されました。そして、全国の観客に向けた一般公開は2016年1月9日より始まりました。

映画には、主演の平山あやをはじめ、多彩なキャストが出演しています。
志田周子：平山あや
高橋校長：長谷川初範
幸子：上野優華
志田荘次郎：榎木孝明
志田せい：池田有希子
志田悌次郎：星野凱士（少年期）、諒太郎（青年期）
風のおんつぁん：岡雅史
竹子：白崎映美（友情出演）
鉄蔵：中本哲也（テツandトモ）（特別出演）
友蔵：石澤智幸（テツandトモ）（特別出演）

制作スタッフは以下の通りです。
監督：永江二朗
原作・脚本：あべ美佳
プロデューサー：上野境介、岡雅史
撮影：早坂伸
* 美術：遠藤剛

映画の主題歌には、作中で幸子役も演じた上野優華が歌唱・作詞を務めた「あたたかい場所」（キングレコード）が採用され、物語に感動的な彩りを添えています。

批評家からは様々な評価が寄せられています。例えば、柳下毅一郎は本作を「節度を保った上品な映画で好感を持つ」としつつも、「地味だ」との印象を述べています。

小説、そして映画となった『いしゃ先生』は、僻地医療という困難な課題に立ち向かった一人の女性医師の偉業を広く伝え、改めて医療従事者の献身的な活動や、地域社会における医療の重要性について考えるきっかけを与えてくれる作品と言えるでしょう。

もう一度検索