いすゞ・ニューパワー

いすゞ自動車がかつて製造・販売していた大型トラックシリーズ、それが「ニューパワー」です。1972年に、それまで主力だったTD/TP型の後継モデルとして市場に投入されました。その名称は、元々搭載されていたエンジン名に由来しますが、単に「ニューパワー」と呼ばれることは少なく、「ニューパワーZ」や、搭載エンジンに応じた「V10SS」といったシリーズ名で区別されることが多かったようです。特に、シリーズ後期には「ニューパワー」という呼称自体が公式には使われなくなりました。

概要

ニューパワーは、カーゴトラック、ダンプトラック、トラクタ、さらには構内専用車に至るまで、非常に多彩な車型が用意されたのが特徴です。1990年代前半までは多くの車両が現役で活躍していましたが、その後の排出ガス規制強化や経年劣化により、現在ではその姿を見かける機会は激減しています。しかし、走行距離の短い地方自治体の消防署などに配備されたハシゴ車や化学消防車の中には、今なおナンバーを付けて稼働している希少な車両も存在します。

搭載されたエンジンによって、エンブレムも異なりました。例えば、10PA1型（295ps）を搭載したモデルには「V10S」、10PB1型（320ps）搭載モデルには「V10SS」のエンブレムが与えられ、これは同時期のいすゞのバス（CRA/CSA系）にも共通する特徴でした。

海外では、韓国の大宇自動車（現在のタタ大宇）が、1973年から1995年という長期間にわたり、ニューパワーのライセンス生産を行っていました。

歴史

ニューパワーの歴史は、1972年 11月20日に登場した「ニューパワーZシリーズ」から始まります。この初期型は、キャブデザインこそTD型キャブオーバー車の基本を引き継いでいましたが、フロントウィンドウを一枚ガラスに変更するなど、内外装には手が加えられていました。搭載されたE120型12023cc直列6気筒エンジンは、先代からパワーアップされ260psを発揮しました。この登場に合わせて、シャーシ車型もSP系として一新。フロントアクスルが後退した独特のレイアウトを採用し、当時の他社製前1軸車と比較してフロントオーバーハングが長いという特徴を持っていました。

1972年 12月には8t積みの2軸車SLR型が追加され、同時に10t積みボンネット型トラックもニューパワーZシリーズとしてモデルチェンジを受け、型式がTMK型に変更されました。

1973年に入ると、1月には10t積みSPG型を追加。前期および中期の前2軸車は、第1軸の位置が前1軸車と同じで、第1軸と第2軸の間隔が比較的長い構造でした。また、セミトラクタもTシリーズからニューパワーZシリーズへと移行し、キャブオーバーのVPR/VLR型やボンネット型のTDK46型が登場。3月には6t積みのSFR型が加わり、これにより大型トラックの全シリーズがニューパワーZとしてモデルチェンジを完了しました。DA640型エンジンも135PSに強化されています。

1973年 4月には、豪華な装備を持つカスタム車が登場。総レザー張りの内装や、運転席側に向けられたデラックス仕様のセンターコンソール、エアコン、ステレオなどが装備されました。また、この時期には8MA1型345psエンジンを搭載したセミトラクタ、VWR/VWZ型が登場。このVWシリーズは、当時の日野HE型にも似た特徴的なフロントグリルデザインを持っていました。このグリルは、一部の構内専用車にも採用されています。

1974年 10月、「ニューパワーV10シリーズ」が登場。10PA1型295PSエンジンを搭載したSRZ型などがラインナップに加わりました。これは前期型の最初のマイナーチェンジにあたり、ISUZUエンブレムのフォントが縦長になり、グリル中央に矢羽マークが付くなど、デザインが変更されました。この縦長ISUZUロゴは、後継モデルである810スーパーⅡまで使用されることになります。

1975年 12月には、大型のフロントグリルが採用されるマイナーチェンジが行われました。その迫力あるデザインから、ユーザーの間では「ゴリラ顔」の通称で親しまれました。この時、V10搭載の6×2車SRM680、直6 E120搭載の6×2車SPM680、ダンプのSLR360Dなどがラインナップに追加されています。

1976年には、2月にV型12気筒の12PA1型（350ps）を搭載したV12トラクター（VTR/VTZ/VRZ型）が登場し、高出力のニーズに応えました。3月にはV10シリーズにもSRK/SRG型が追加されています。

1977年 10月、「ニューパワーV10SS」が登場。こちらは強化された10PB1型320psエンジンを搭載し、6×2平ボディのSSM型、6×4平ボディのSSZ型、6×4ダンプのSSZ型などが加わりました。

1978年 4月には、8t積載量クラスにV8 8PB1型260psエンジンを搭載したSMR型が追加されました。これはSP系のシャーシをベースとしながら、軽量化が図られたモデルでした。

ニューパワーシリーズにとって最大の変更は、1979年 10月に行われたビッグマイナーチェンジです。キャブ外観が大幅に変更され、助手席ドアには側面確認窓、通称「OKウインド」が装備されました。この新しいフェイスデザインは「ロボット顔」と呼ばれました。ヘッドライトの間隔が狭まり、前1軸車のフロントアクスルは70㎜前進してフロントオーバーハングが1430㎜となるなど、シャーシ構造にも変更が加えられました。また、前2軸のS#G型や低床4軸のS#H型では、第1軸が中期以前より後退した仕様となりました。

このビッグマイナーチェンジ以降、カタログなどでは「ニューパワー」の名称は使われなくなり、V10SSといったシリーズ名で表記されるようになりました。トラック系にはSL系、SP系、SM系、SR系、SS系といった既存シリーズに加え、新たに前2軸で8PB1を搭載するSMG型、4軸低床で8PB1および10PB1を搭載するSMH・SSH型などが追加され、バリエーションがさらに拡充されました。直列6気筒エンジン搭載車も拡充され、8tクラスに6QA1型搭載のSJR型、10tクラスにはターボ付きの6RA1型（SH系）と6RB1型（SQ系）が登場しました。また、軽量リーフサスが改良され、新開発のNKサス搭載車はSMN型としてラインナップされました。トラクタ系もVS, VT, VVといった多様なバリエーションが展開され、テールランプもそれまでの丸型から角型に変更されています。

1981年 8月には、新たにターボエンジン搭載車が登場。V型8気筒の8PB1型（275ps）と、直列6気筒の6RA1型（285ps）の2機種が加わり、「力と燃費の切り札」というキャッチコピーとともに、CMにはタレントの毒蝮三太夫氏が起用されました。

1982年9月、山間部の急勾配を走行するダンプユーザーからの強い要望に応える形で、V型12気筒エンジンが新開発されました。総排気量16826ccを誇る12PB1型エンジンは、350psという当時のハイパワーを発揮し、悪路や急坂での走行性能を向上させました。

そして、1983年 8月、ニューパワーシリーズはその歴史に幕を下ろしました。後継モデルには、後にいすゞの大型トラックの主力となる「810」が登場しました。

車両体系

ニューパワーシリーズの車両型式は、特定の規則性を持っていました。記号の1文字目は用途を示し、Sは単車系、Vはセミトラクタ系、Yは構内専用車系を表します。2文字目は搭載エンジン、3文字目は駆動方式やサスペンション形式を示していました。1979年のビッグマイナーチェンジ以降に追加された車種には、識別のために「K-」が冠されました。この体系に基づき、非常に多岐にわたるバリエーションモデルが存在しました。

まとめ

いすゞ・ニューパワーは、その11年に及ぶ製造期間中に多くの改良とバリエーション追加を重ね、日本の高度経済成長期における物流を支えた重要な大型トラックです。特徴的なデザインや革新的な技術を取り入れながら進化し、後継の810へと技術と信頼性を引き継ぎました。現在では希少な存在となりましたが、いすゞ大型トラックの歴史において、忘れられない足跡を残したモデルと言えるでしょう。

参考文献
カミオン特別編集『いすゞ自動車のすべて』2012年

関連項目
いすゞ自動車
いすゞ・TD/TP (先代モデル)
いすゞ・810 (後継モデル)
いすゞ・P系エンジン (関連エンジンシリーズ)
いすゞ・エルフ / フォワード / ギガ (他のいすゞトラックシリーズ)

もう一度検索