いそうろう

トムとジェリー：大騒動のいそうろう

1954年、シネマスコープという当時最新の技術を用いて制作された『トムとジェリー』の短編作品『いそうろう』。この作品は、トムとスパイクという2匹のペットと、彼らの飼い主である夫婦、そしてジェリーというネズミを中心に繰り広げられる、コミカルでスリリングな物語です。

物語は、大食漢のトムとスパイクが冷蔵庫を荒らし、ハムやミルクをたらふく食べるシーンから始まります。その莫大な食費に頭を悩ませる飼い主夫婦は、やむなくどちらか一匹を追放するという決断を下します。

この決定を耳にしたトムとスパイクは、必死に飼い主夫婦へのアピールを開始します。犬派の夫にはスパイクが、猫派の妻にはトムがそれぞれ忠誠心を示し、家事を手伝うなどして好印象を与えようと奮闘します。

しかし、飼い主夫婦の意見は対立します。最終的に妻の提案で、「ネズミを捕まえた方が生き残れる」という条件が決定。こうして、トムとスパイクはジェリーを巡って激しい争いを繰り広げることになります。

トムがジェリーを捕まえると、スパイクが奪い、スパイクが捕まえるとトムが奪い返すという、激しい奪い合いが続きます。この過程で、トムとスパイクは家の中をめちゃくちゃに荒らしまくり、遂に飼い主夫婦の怒りを買ってしまいます。

ジェリー争奪戦は決着することなく、トムとスパイクは両方とも追放されるという結末を迎えます。しかし、皮肉にも「エサ代がかからない」という理由で、ジェリーが正式なペットとして認められることになります。ジェリーの巣には、実は盗み出された大量の食料が隠されていたのですが…。

追放されたトムとスパイクは、飼い主から「出ていけ」と命じられ、なんと冷蔵庫ごと持ち去って逃亡します。飼い主の悲痛な叫びも虚しく、2匹は食料を満載した冷蔵庫と共に姿を消すのです。

この作品に登場するキャラクターたちは、それぞれ個性豊かに描かれています。必死に生き残ろうとするトムとスパイク、彼らの争いに振り回されるジェリー、そして、彼らの食費に頭を悩ませる飼い主夫婦。それぞれの思惑が複雑に絡み合い、ユーモラスな展開を生み出しています。

『いそうろう』は、トムとジェリーのドタバタ劇を通して、人間の勝手さと動物たちの生き様をコミカルに描いた作品です。冷蔵庫強奪という衝撃的なラストシーンも印象的で、観客に忘れられない記憶を残します。また、本作は、初期のトムとジェリー作品と比べて、より洗練されたアニメーション技術と、シネマスコープによる迫力ある映像が特徴です。

日本のテレビ放映では、TBS系列をはじめとする各局で1964年から1990年頃まで放送され、現在でもDVDに収録されています。カートゥーンネットワークではリマスター版が放送されており、より鮮明な映像で楽しむことができます。

『いそうろう』は、何度見ても楽しめる、まさに『トムとジェリー』を代表する傑作短編と言えるでしょう。

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