いつかの少年

長渕剛のベストアルバム『いつかの少年』：集大成と激動の軌跡

1994年12月1日、長渕剛のトリプルアルバム『いつかの少年』がリリースされました。これは、それまでリリースされていた『夏の恋人』（1981年）、『FROM T.N.』（1983年）、『LOVE SONGS』（1986年）に続くベストアルバムですが、これらとは異なり、長渕剛のキャリアを網羅した初の公式ベストアルバムという点で大きな意義を持っています。

1978年から1994年までの楽曲の中から厳選された全3枚組CDは、シングル曲はもちろんのこと、ライブアルバムからの選曲も含まれており、長渕剛の音楽遍歴を深く掘り下げて理解できる内容となっています。特に、シングル曲「巡恋歌'92」や「人間」がアルバム初収録されたことは、ファンにとって大きな喜びとなりました。また、「乾杯」はライブ音源が使用されており、観客の合唱が印象的な一曲となっています。この熱狂的なライブ音源について、購入者からの問い合わせが多かったためか、後にケースに「ライヴ音源」である旨のシールが貼られるというエピソードも残っています。

このアルバムは、オリコンチャートで最高2位という輝かしい結果を残しました。しかし、このアルバムのリリースを彩る背景には、長渕剛自身の激動の時期がありました。

アルバムリリース前後の激動

1993年のアルバム『Captain of the Ship』リリース後、長渕剛は1994年8月10日にシングル「人間」を発表します。しかし、このシングルはオリコンチャートで4位となり、「しゃぼん玉」、「巡恋歌'92」、「RUN」と続いていたシングル連続1位獲得記録が途絶えることになりました。さらに、続く全国ツアー「LIVE'94 Captain of the Ship」は、岡山公演後に長渕剛が体調不良で緊急入院したため、残りの18公演が中止されるという事態に陥りました。病名は溶連菌感染症による菌血症と診断され、5億から6億円とも言われる損害額が発生しました。その原因は、過酷なライブツアーによる疲労と見られています。長渕剛のライブは1曲が30分に及ぶことも珍しくなく、1人で3時間以上歌い続ける過酷なパフォーマンスは、彼に多大な負担を強いていたのです。

このツアー中止に関連し、東京スポーツが長渕剛の国生さゆりとの不倫を報じるなど、様々な憶測が飛び交いました。これに対して長渕剛は法的措置に訴えるなど、強く反論しています。さらに、桑田佳祐のアルバム『孤独の太陽』に収録された「すべての歌に懺悔しな!!」が長渕剛と矢沢永吉を揶揄したものであるという憶測もマスコミで流されました。桑田佳祐は記者会見で謝罪しましたが、長渕剛は桑田佳祐の謝罪に納得せず、反論記事を雑誌に掲載するなど、大きな騒動に発展しました。

アルバムの構成と収録曲

『いつかの少年』には、1978年から1994年までの楽曲が、これまでのアルバムから選曲されています。ただし、テレビドラマ主題歌として使用された一部の曲は収録されていません。ディスク1には1978年から1986年の楽曲、ディスク2には1987年から1991年の楽曲、ディスク3には1992年から1994年の楽曲が収録されています。注目すべきは、ディスク3に収録された「巡恋歌'92」と「人間」がアルバム初収録であること、そして1992年5月15日の東京ドーム公演「LIVE'92 JAPAN」や1993年5月27日の大阪城ホール公演「LIVE JAPAN'93」の音源が収録されていることです。これらのライブ音源は、当時未リリースだった楽曲が含まれています。

アルバムリリース後とその後

1995年1月24日、長渕剛は麻薬取締法違反で逮捕され、活動を停止せざるを得なくなります。しかし、同年11月16日には、ツアー「LIVE'95 ACOUSTIC ROAD Just Like A Boy」が開催され、12月26日には3度目の東京ドーム公演も実現しました。

『いつかの少年』は、音楽情報サイト『CDジャーナル』で、「自分が思い描く『うた』に、『男』に、『愛』に、『世界』に挑み続ける姿の記録は、特に後半以降のファンならば必聴」と評されています。オリコンチャートでは最高位2位、登場回数12回、売り上げは約80万枚を記録し、長渕剛の逮捕後にも売り上げが伸びたという情報もあります。

『いつかの少年』は、長渕剛の音楽史を凝縮しただけでなく、彼を取り巻く様々な出来事、そしてその苦悩と葛藤までもが反映された、まさに集大成と言える作品です。彼の音楽人生の重要な転換点となった、このアルバムは、これからも多くのファンを魅了し続けることでしょう。

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