FROM T.N.

FROM T.N.：長渕剛の軌跡を刻む、初のベストアルバム

1983年11月28日、長渕剛初の公式ベストアルバム『FROM T.N. TSUYOSHI NAGABUCHI 1978〜1983 SINGLE COLLECTION』が東芝EMIのエキスプレスレーベルよりリリースされました。

それ以前にも、カーステレオ向けベストアルバム『夏の恋人』（1981年）が存在しましたが、カセットテープのみのリリースだったため、本作が彼の初の公式ベストアルバムという位置づけになります。

本作には、1978年のデビューシングル「巡恋歌」から、1983年の大ヒット曲「GOOD-BYE青春」まで、シングルA面全曲が収録されており、長渕剛のキャリアの重要な部分を凝縮した内容となっています。特に「GOOD-BYE青春」は、長渕剛が主演を務めたTBS系テレビドラマ『家族ゲーム』の主題歌として使用され、大きな話題を呼びました。

アルバム制作を彩る、様々な出来事

このアルバムのリリースに至るまでには、数々の出来事が長渕剛を彩っていました。

まず、1983年6月にはアルバム『HEAVY GAUGE』をリリース、7月には西武球場にて約2万人を動員する大規模ライブ「SUPER LIVE IN 西武球場」を開催しています。しかし、その直後に行われたサザンオールスターズとのジョイントライブでは、予期せぬ出来事が発生します。ゲスト出演を期待していた長渕剛は、実際には前座扱いだったことに加え、チケット販売もサザンオールスターズ名義で行われていたため、彼のファンは少なく、またアンコールでは桑田佳祐からビールをかけられるなど、不本意な形でライブを終えることとなりました。

このライブの経験は、長渕剛の心に深い影を落としました。しかし、彼はこの経験を糧に、音楽活動に邁進し続けます。7月25日の西武球場でのライブを収録したライブアルバム『SUPER LIVE IN 西武球場』をリリースした後には、41都市47公演に及ぶ大規模なライブツアー「LIVE'83 - '84 JUST HEAVY GAUGE」を開催。並行して、俳優としても大きな転機を迎えます。

俳優としての才能が開花

1983年、テレビ局プロデューサーの柳井満氏から熱烈な誘いを受け、長渕剛は初主演となるTBS系テレビドラマ『家族ゲーム』に出演します。柳井氏は、長渕剛の持つ「適当なまじめさ、怖さ、優しさ」を高く評価し、主人公・吉本剛役に抜擢。長渕剛自身も、この役を「最初で最後」のつもりで演じたといいます。

『家族ゲーム』は、20%近い高視聴率を獲得。長渕剛の演技力は高い評価を受け、「人気フォーク歌手が、役者として非凡な才能を見せ、演技力で周囲をうならせた」と多くのメディアで報じられました。このドラマの主題歌となった「GOOD-BYE青春」も大ヒット、オリコンチャート最高位5位、約32万枚を売り上げるヒット曲となりました。

アルバムの内容と反響

『FROM T.N.』は、1978年から1983年までのシングルA面曲を収録した、まさに長渕剛の軌跡を辿るような作品です。3曲はアルバム初収録で、長渕剛本人の解説も添えられています。ただし、ビクターレコード時代（1977年）のデビューシングル「雨の嵐山」は収録されていません。

LP、カセットテープ、CDの3形態でリリースされ、1988年にはカセットテープとCDのみが再リリースされました。プロモーション活動では、フジテレビ『夜のヒットスタジオ』やTBS『ザ・ベストテン』に出演し、「GOOD-BYE青春」を披露しています。音楽情報サイト『CDジャーナル』では、「TVドラマ『家族ゲーム』のテーマ曲「GOOD-BYE青春」をはじめ、「順子」などフォーク歌手らしい歌を聞かせてくれる」と評され、オリコンチャートでは最高位7位、約7万枚の売り上げを記録しました。

スタッフ

プロデューサー：長渕剛
ディレクター：陣山俊一（ユイ音楽工房）、山里剛（ヤマハ音楽振興会）、木村嘉男（東芝EMI）
レコーディング・エンジニア：石塚良一
チーフ・マネージャー：糟谷銑司（ユイ音楽工房）
パーソナル・マネージャー：ひらたしょういち（ユイ音楽工房）
アート・ディレクター、デザイナー：荒井博文 (GIL HOUSE)、江頭瑞子 (GIL HOUSE)
写真撮影：大川奘一郎
エグゼクティブ・プロデューサー：川上源一（ヤマハ音楽振興会）、後藤由多加（ユイ音楽工房）

このアルバムは、音楽活動のみならず、俳優としても活躍し始めた長渕剛の、多角的な才能を凝縮した作品といえるでしょう。彼の音楽史における重要なマイルストーンとなった作品です。

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