うずまき猫のみつけかた―村上朝日堂ジャーナル

『うずまき猫のみつけかた―村上朝日堂ジャーナル』

村上春樹が1996年に発表したエッセイ集『うずまき猫のみつけかた』は、彼の独特な文体と視点で描かれたさまざまなエピソードが収められています。この書は、元々1994年から1995年にかけて『SINRA』に連載されたコラムを大幅に加筆したもので、彼のファンにとっては待望の作品でした。新潮社からの刊行後、1999年には新潮文庫としても出版され、2008年には新装版が登場しました。新装版では副題「村上朝日堂ジャーナル」が削除されていますが、内容の魅力は変わりません。

本書では、村上がふとした日常の中で出会った猫とのエピソードや、彼のユーモアあふれる社会観が描かれています。たとえば、ある猫の名前を「マサヨシ」とつけた理由は、特定の政治家に雰囲気が似ているからという微妙な思いが込められています。さらに、彼は言葉の選び方にもこだわり、翻訳された言葉の響きについても自身の意見を述べています。

村上のエッセイには、彼独特の哲学も垣間見えます。「欠けない満月がないように、トラブルのない生活もない」この言葉は、彼自身の人生観を反映しており、どんなに努力しても避けられないトラブルについての諦観が感じられます。また、彼の妻、村上陽子への愛情が溢れるエピソードも紹介され、彼女は特に「日出処の天子」に夢中になり、聖徳太子に関する歴史書を読み漁った末にあまたの旅行にまで出かけている様子が描かれています。

また、社会や組織についての冷静な考察も展開され、個人と組織の争いについての結論は、あまり心温まるものではありませんが、実際には組織が勝利することが多いという事実を認めています。こうした観点からも、村上の思考がどれほど鋭いものであるかを理解することができます。

巻末には、イラストを手がけた安西水丸との対談が収録されており、寿司屋に関する軽快な会話が楽しめます。この対談には、彼らの生活や文化への視点が色濃く反映されており、作品全体の深みを増しています。村上春樹のファンのみならず、一般読者にとっても、新たな視点を提供する興味深い一冊となっています。

総じて、『うずまき猫のみつけかた』は、村上春樹らしい軽妙な語り口と独自の世界観が詰まったエッセイ集です。日常の中の驚きや笑い、そして時には哲学的な思索を楽しみながら、彼の魅力的な文体に浸ることができる一冊と言えるでしょう。

もう一度検索