うた日記

森鷗外『うた日記』：戦場の詩情と人間心理の記録

『うた日記』は、1907年に刊行された森鷗外の日露戦争従軍詩歌集です。この作品は、短歌331首、俳句168句、新体詩58篇、長歌9篇という豊富な内容で構成されています。鷗外自身が、戦場における兵士たちの心理と詩歌の関係について考察しており、その背景には、過酷な状況下でも人間が心の拠り所を求める姿がありました。

戦場における詩歌の役割

鷗外は、与謝野鉄幹の歌集『相聞』に寄せた序文の中で、日露戦争時の経験を振り返り、次のように述べています。「猛烈な交戦が続く間にも、準備や整頓の期間があり、その間に将卒の心は何を求めるのか。人は神を要求し、詩を要求する。それは人情として避けられない要求である」。この言葉から、鷗外が戦場という極限状態において、宗教と詩歌が人々の精神的な支えとなることを強く認識していたことが伺えます。高等司令部から兵卒の舎営に至るまで、様々な場所で詩の会が開かれていたという事実は、当時の人々の心の渇望を物語っています。

佐藤春夫による絶賛

後年、佐藤春夫は『うた日記』について、「一個非常の記録であって、また非凡な詩歌集を成している。未来に寄与するところ多きもの」と高く評価しました。この評価は、『うた日記』が単なる従軍記録に留まらず、文学作品としての普遍的な価値を持つことを示唆しています。戦場の現実と人間の内面を深く掘り下げた鷗外の詩歌は、時代を超えて読み継がれるべき作品と言えるでしょう。

『うた日記』を読む

『うた日記』は、国立国会図書館のウェブサイトでデジタル化されたものが公開されており、誰でもアクセスして読むことができます。鷗外の詩歌を通じて、日露戦争という歴史的な出来事と、その時代を生きた人々の感情に触れてみてはいかがでしょうか。

参考文献
大石汎「森軍医監の凱旋」
末延芳晴『森鴎外と日清・日露戦争』

外部リンク
* 『うた日記』 - 国立国会図書館

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