うつけ

うつけとは？

「うつけ」とは、古くは「空っぽ」を意味する言葉でした。それが転じて、ぼんやりとしていて頼りない人物、あるいは常識はずれで愚かな人物を指すようになりました。「うつけ者」とも呼ばれます。漢字では「空」「虚」「躻」といった字を当てますが、現代ではあまり使われません。

重要なのは、「うつけ」と評される人物が必ずしも本当に愚かであるとは限らない点です。奇矯な行動や言動、あるいは周囲の期待を裏切る振る舞いなどが、「うつけ」という評価につながることが少なくありません。むしろ、策略として「うつけ」を装う人物も存在したと言えるでしょう。

歴史上「うつけ」と呼ばれた人物

歴史上、多くの著名人が「うつけ」と評されたり、そのように呼ばれたりしています。その中には、実際の実力や才能とは裏腹に、そのような評価を受けてしまった人物も含まれています。代表的な例として、以下の人物が挙げられます。

織田信長: 信長は革新的な政治家として知られていますが、一方でその奇抜な行動や、既存の権威を無視する態度から「うつけ」と評された側面もあります。特に若い頃には、その行動に周囲が戸惑う場面もあったと伝えられています。
吉川広家: 毛利氏の重臣として活躍した広家は、慎重で計算高い人物として知られていますが、一方で、その保守的な姿勢や、大胆な決断を欠いた面から「うつけ」と評された時期もあったようです。
北条高時: 鎌倉幕府の最後の執権。政治的判断の誤りや、時代への対応の遅れから、無能な人物として「うつけ」と評されました。室町幕府の勃興を前に、幕府の衰退を決定づける役割を演じたと言えるでしょう。
足利義政: 室町幕府8代将軍。政治への関心が薄く、芸術や文化に傾倒したことから、「うつけ」と評されることもありました。一方で、東山文化の隆盛を支えた側面も持っています。
今川氏真: 今川義元の嫡男。父ほどのカリスマ性や政治力を持たなかったことから、周囲から「うつけ」と評されることが多かったと言われています。駿河国の衰退に繋がったとも指摘されています。

「うつけ」を装った人物

中には、策略として「うつけ」を装っていたとされる人物もいます。これは、兵法三十六計の一つである「仮痴不癲（かしふてん）」に相当します。敵を油断させるために、わざと愚かなふりをしたり、精神的に不安定なふりをしたりする戦術です。

前田利常: 加賀藩の藩主。実際には優れた統治者であったとされていますが、あえて「うつけ」を装うことで、敵の警戒心を解き、自らの目的を達成したと推測する説があります。
* 宇喜多直家: 毛利氏の家臣。知略に長けた人物として知られていますが、状況に応じて「うつけ」を装うことで、敵を欺き、自らの利益を追求したとされる場面があります。

その他

「うつけ」の意味に関連する作品として、ハイドンの交響曲第60番があります。この作品には「うつけ者」「うっかり者」といったあだ名がついています。これは、作品の中に、やや不器用でコミカルな要素が含まれていることに由来すると言われています。

このように、「うつけ」という言葉は、単なる侮辱語ではなく、その時代背景や、人物の行動、評価者の立場などによって、様々な意味合いを持つ複雑な言葉であると言えるでしょう。

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