仮痴不癲

仮痴不癲（かちふてん）

「仮痴不癲」とは、兵法三十六計の第二十七計にあたる戦術で、愚か者を装って相手に警戒心を抱かせず、好機を待つことを指します。これは、単に痴呆や老衰を演じるだけでなく、わざと愚かな作戦行動を行ったり、軍事力を隠蔽して低く見せたりすることで、敵を油断させる戦術も含まれます。（静不露機，雲雷屯也）

「癲（てん）」は狂うことを意味しますが、偽装は「癲」ではなく「痴」によるべきとされます。「癲」を演じると、行動に一貫性がなくなり、偽装であることを見破られやすくなります。一方、「痴」は「知らない、分かっていない、気づいていない」という前提に立ち、振る舞いとしては合理的でありながら、結果として愚かなものとなるため、第三者から見て自然であり、敵を欺きやすいのです。

歴史上の事例

楚の荘王

中国春秋時代の楚の国では、穆王という強権を誇る王が亡くなりました。穆王の死後、即位した太子侶（後の荘王）は、叔父の公子燮による誘拐事件をきっかけに人が変わったように、政治を顧みず、日夜宴席に明け暮れるようになりました。群臣は新王の乱行に呆れ、国は乱れ、国外の諸国は楚を侮るようになりました。

しかし、三年後、伍挙という臣下が楚王に諫言しました。楚王は最初は不快感を示しましたが、伍挙の言葉を聞き入れ、悪臣を排し、賢臣を登用する大改革を始めました。実は、楚王は宴席に明け暮れるふりをしながら、家来たちの本質を見抜いていたのです。荘王の時代、楚は絶頂期を迎え、その威光は父の穆王の頃よりも更に遠方まで広がりました。

漢の陳平

漢の時代、劉邦が亡くなり呂雉が実権を握ると、呂氏の専横が始まりました。建国の重臣である右丞相の陳平は、陰謀に優れていたため警戒されていましたが、酒と女に溺れたふりをして粛清の嵐を避けました。そして呂雉の死去を機に、宴会に見せかけて同志を集め、クーデターを計画し、呂氏を皆殺しにしました。

魏の司馬懿

魏の時代、曹操亡き後、司馬懿が権勢を増していきましたが、政敵の曹爽の一派に疎まれ、宮殿から遠ざけられました。司馬懿は屋敷に籠もり、交流を絶ちました。曹爽派は司馬懿の様子を見に行くと、彼は真っ当な応答もできず、食事もままならないほど衰弱していました。曹爽らは司馬懿を完全に油断し、都を空けた隙を突き、司馬懿は権勢を取り戻し、曹爽らを排除しました（高平陵の変）。司馬懿は魏において皇帝をしのぐ権勢を確保し、孫の司馬炎が禅譲される道を定めたのです。

このように、暗愚をよそおって相手を油断させる計略を、「仮痴不癲の計」と呼びます。

まとめ

仮痴不癲の計は、敵を欺き、好機を待つための有効な戦略です。しかし、この計略を実行するには、状況を冷静に分析し、緻密な計画を立てる必要があります。また、敵を欺くためには、自分自身を偽り続ける覚悟も必要となるでしょう。

脚注

兵法三十六計
史記

関連項目

うつけ
爪#文化
韓信の股くぐり、雌伏雄飛、臥薪嘗胆
プロパガンダ
* リチャード三世 (シェイクスピア)

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