えちごせきかわ大したもん蛇まつり

新潟県岩船郡関川村で、毎年8月の最終日曜日に盛大に開催されるのが、「えちごせきかわ大したもん蛇まつり」です。この祭りの最大の特色は、竹と藁を用いて作られた、ギネス世界記録にも認定された世界最長の大蛇が村内を練り歩く「大蛇パレード」にあります。この巨大な蛇は、全長が82.8メートル、重さは実に2トンにも及び、その壮観な姿は訪れる人々を圧倒します。

大蛇の製作は、村内54の集落がそれぞれ胴体の一部を分担して手掛けます。そして祭り当日は、各集落の代表者や地元の中学生など、約500人もの人々が交代しながらこの巨大な蛇を担ぎ、村の中心部を威勢良く練り歩きます。一体となって大蛇を操る担ぎ手の姿は、地域の強い結びつきを象徴しています。

この祭りは単なるエンターテインメントに留まらず、過去に村を襲った悲劇的な出来事、すなわち1967年8月28日に発生し甚大な被害をもたらした羽越大水害の記憶を後世に伝えるという、重要な側面も持ち合わせています。大蛇の長さである82.8メートルは、この水害が発生した「8.28」という日付に由来するとされており、水害への鎮魂と復興への願いが込められています。

祭りの前夜には、夜空を彩る花火大会や、地域住民が一体となる盆踊りが開催され、祭りの雰囲気を一層盛り上げます。この祭りには、1996年から2018年までの平均で約17,000人が訪れており、これは関川村の人口のおよそ3倍にあたる数で、地域外からも高い関心を集めていることが分かります。

祭りの誕生とその歩み

祭りの始まりは1987年に遡ります。村の青年たちが中心となり「せきかわふるさと塾」が設立されたことが契機となりました。その活動の中で、NHKから「ふるさとの文化祭」という番組制作の企画が持ち上がり、村民自身の手で新たな祭りを創り出すことになったのです。祭りのテーマは、村に伝わる「大里峠の大蛇伝説」と、過去の「8.28水害」の二つに決定されました。そして、わずか3ヶ月という準備期間を経て、1988年8月に記念すべき第1回が開催されました。

第1回は大きな盛り上がりを見せ、その模様が全国に放映されたことで、社会から大きな反響を得ました。この功績が認められ、同年には第5回日本イベント大賞奨励賞を受賞しています。その後も祭りは継続され、2019年までの32年間は、悪天候による中止もなく開催が続けられました。惜しくも2020年から2022年にかけては、感染症の影響で中止となり、連続開催の記録は途絶えましたが、祭りは地域の重要な伝統として根付いています。また、1989年10月には、村民約400人が臨時列車で上京し、東京都立川市で開催された「ふるさと東京まつり」で出張開催を行うなど、村外へのPR活動も積極的に行われました。2016年度には、その地域に根ざした活動が評価され、国土交通省から手づくり郷土賞を受賞しています。

大里峠の大蛇伝説

祭りのもう一つのテーマである「大里峠の大蛇伝説」は、村内の蛇喰（じゃばみ）集落に伝わる民話です。この伝説によると、蛇の味噌漬けという禁じられたものを食べた女性「おりの」が、恐ろしい大蛇へと姿を変えてしまいます。その後、「おりの」は大里峠に現れ、琵琶を奏でていた琵琶法師に、貝附の荒川狭窄部を堰き止めて一帯を湖に変え、そこを自分の住処とするつもりであると告げます。琵琶法師が大蛇から村を守るというこの伝説は、過去の洪水が長い年月を経て伝承化されたものではないかという説も唱えられています。

大蛇の現在

第1回開催以来、大蛇は初代から数えて9代目が製作・更新されてきたほか、小型の大蛇も3代製作されています。これらの歴代の大蛇の一部は現在も保管されており、4代目の大蛇は、村内の道の駅関川に併設されている「せきかわふれあいど～む」に常設展示され、訪れる人々が見学できるようになっています。かつては大石ダム近くの西俣トンネルにも保管されていた時期がありました。

えちごせきかわ大したもん蛇まつりは、村を襲った悲劇を記憶にとどめつつ、伝説を基にした創造的な取り組みと、住民の強い協力によって支えられています。この祭りは、地域の歴史と文化、そして人々の絆の象徴として、今後も多くの人々を惹きつけることでしょう。

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