おおぐま座ガンマ星

おおぐま座に位置する恒星の一つに、γ星があります。視等級は約2等で、夜空において比較的明るく見えます。この星は特に、よく知られたアステリズムである「北斗七星」を形作る七つの星のうちの一つとして数えられています。

北斗七星における位置

北斗七星は柄杓の形に並んだ七つの星ですが、おおぐま座γ星は、この柄杓の「水を汲む部分」を構成する三つの星のうち、柄杓の底から三番目の位置にあたります。北斗七星の星々には、現在の北極星であるポラリスに近いものから順にギリシャ文字のバイエル符号が割り当てられました。γ星は北極星から三番目に位置することから、この符号が与えられています。

特異な物理的性質

この恒星は、非常に速い速度で自転していることが観測によって明らかになっています。この高速な回転によって生じる遠心力により、星の周囲には高温のガスが薄く広がり、円盤状の構造を形成しています。特に顕著なのは、この星を取り巻く水素ガスです。このガス円盤が存在することにより、星のスペクトルには通常の吸収線とは異なる「水素の輝線」が強く観測されます。そのため、スペクトル分類においては、輝線 (emission line) の存在を示す接尾記号 'e' が付けられています。通常、この接尾記号 'e' が付与される恒星は、比較的高温のB型スペクトルを示すものが多いのですが、おおぐま座γ星のようにA型スペクトルを示しながら 'e' を持つ星は稀です。2008年の時点で、このようなA型で輝線を持つ星は、全天でわずか100個程度しか発見されていませんでした。この事実は、おおぐま座γ星が持つユニークな物理的性質を物語っています。

おおぐま座運動星団の一員

おおぐま座γ星は、「おおぐま座運動星団」と呼ばれる恒星のグループに属しています。この運動星団は、約40個の星々から構成されており、これらは宇宙空間においてほぼ同じ方向へ、同じような速度で運動していると考えられています。北斗七星を形成する七つの星のうち、柄杓の柄の先端にあるη星と、柄杓の取っ手と本体をつなぐ位置にあるα星（ドゥーベ）を除く五つの星が、このおおぐま座運動星団に属しています。つまり、おおぐま座γ星を含む北斗七星の多くの星々は、単に地球から見て同じ方向に見えるだけでなく、文字通り宇宙空間で仲間として一緒に移動していると言えるでしょう。

名前の由来

おおぐま座γ星には、いくつかの名前が知られています。正式なバイエル符号による名称は Gamma Ursae Majoris で、略称として γ UMa と表記されます。また、この星は「フェクダ (Phecda)」という固有名でも広く呼ばれています。この固有名は、アラビア語で「大熊の腿」を意味する "fakhidh al-dubb al-akbar" という言葉に由来しています。2016年6月30日には、国際天文学連合 (IAU) の恒星の命名に関する作業部会 (Working Group on Star Names, WGSN) によって、このフェクダという名前がおおぐま座γ星の正式な固有名として承認されました。アラビア語の名称が、星座の形における星の位置を示しているのが興味深い点です。さらに、古くから中国でもこの星は認識されており、『史記』の「天官書」をはじめとする歴史書の天文に関する記述では「天璣（てんき）」と呼ばれていました。また、唐の時代に成立した密教の経典である『仏説北斗七星延命経』の中では、「禄存（ろくぞん）」という名前で言及されています。

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