おしぼり

おしぼりとは

おしぼりとは、手などを清潔に保つために用いられる、水分を含んだ綿や紙製の繊維製品です。「おてふき」とも呼ばれ、日本独自の文化として発展してきました。近年では、日本国外でも普及が見られます。

歴史

おしぼりの歴史は古く、『古事記』や『源氏物語』の時代にまで遡ると考えられています。その原型は、公家が客人を招いた際に提供した濡れた布でした。江戸時代には、木綿の手ぬぐいが普及し、旅籠で旅人のために水を入れた桶と手ぬぐいが用意され、旅人は手ぬぐいを水で絞って使っていました。この「絞る」という行為が、おしぼりの語源になったと言われています。

戦後、飲食店が増えるにつれて、おしぼりの習慣が再び広まりました。当初は自家製のおしぼりを提供していましたが、需要の増加に伴い、おしぼりを貸し出すビジネスが誕生しました。貸しおしぼり業者は、洗濯機で洗ったおしぼりを手で巻いて飲食店などに卸していましたが、外食産業の発展と共に量産体制を整え、貸しおしぼり業は確立されました。

一般的なおしぼり

おしぼりは、飲食店などで手を拭くために提供されるほか、日常生活でも広く使われています。主な素材は、パイル地の綿タオルと不織布の紙です。

綿タオルおしぼり

タオル地の布を水で濡らして絞ったもので、適度な湿り気があります。食事の前や食事中に手を拭くのに便利で、巻いたり畳んだりして細長く成形され、ビニールで密封されるか、おしぼり受けに乗せて提供されます。おしぼりを載せる容器は「おしぼり入れ」と呼ばれます。

紙おしぼり

使い捨てが可能な紙製のおしぼりで、年間消費量は29億枚にも上ります。アルコールや安定化二酸化塩素を含む液体を含ませることがあり、布製に比べて薄く収納できるため、弁当などの食品に添付されることもあります。

環境意識の高まりから、持ち運び可能な「マイおしぼり」も販売されています。また、おしぼり業界では、環境対応を考える「おしぼりエコマイスター制度」も創設されています。

おしぼりの提供方法

バーやクラブでは、ホステスやホストがおしぼりを広げて手渡すのが一般的です。最近では、居酒屋でも同様のサービスが増えています。おしぼりは、手を拭くほか、顔を拭いたりするのにも使われ、使用後は「おしぼり受け」に置きます。汚れたおしぼりは交換され、トイレから戻った際には未使用のおしぼりが手渡されます。

温冷のおしぼり

飲食店では、夏に冷たいおしぼり、冬に温かいおしぼりを提供する店もあります。温かいおしぼりは、温水やスチームで布を湿らせて作られ、冷たいおしぼりは、水分を含ませた状態で冷蔵します。おしぼりを温める専用の機器もあります。

理容室では、髭剃りの際に蒸しタオルが使われますが、これも広義のおしぼりと言えます。

電子レンジで濡れタオルを温めておしぼりの代わりにする人もいますが、事故につながる可能性もあるため注意が必要です。

貸しおしぼり

飲食店などでは、おしぼりを業者からレンタルすることがあります。おしぼりはビニール袋に入れられ、おしぼり入れやトレーに乗せて提供されます。使用後のおしぼりは業者に返却され、洗濯後に再利用されます。使用できなくなったおしぼりは、ウエスやダスターとしてリサイクルされることもあります。

貸しおしぼりには厳しい衛生基準が設けられており、異臭や変色がないことはもちろん、大腸菌や黄色ブドウ球菌が検出されないこと、一般細菌数が1枚あたり10万個を超えないことなどが求められています。全国おしぼり協同組合連合会は、この基準を満たしたおしぼりに「衛生マーク」を表示しています。

また、違法な貸しおしぼり業者も存在し、犯罪組織の資金源となっていることが社会問題となっています。このような行為は、1992年の暴対法施行以降、減少傾向にあります。

自動おしぼり機

近年では、ロール紙と除菌液をセットしてボタンを押すと、使い捨ての温かいおしぼりが出てくる自動おしぼり機が登場しています。セルフサービス式の飲食店や医療機関、介護施設などで導入が進んでいます。

おしぼりの日

日本では10月29日が「おしぼりの日」と定められています。これは、「10本の指」を「2(ふ)9(く)」と読む語呂合わせからきています。この日は、全国おしぼり協同組合連合会によって2004年に制定されました。

日本以外でのおしぼり

1959年、日本航空が国際線で乗客におしぼりを提供したことがきっかけで、おしぼりは海外にも普及しました。現在では、多くの航空会社が離陸前におしぼりを提供しています。中国などのアジア地域では、高級レストランなどで提供されることもあります。

欧米では、ナプキンの使用が一般的ですが、おしぼりを提供する企業も存在します。ただし、欧米では「テーブルに着く前には手を洗っている」という前提があるため、おしぼりが定着しにくいという意見もあります。