おたぐり

おたぐり

概要

おたぐりは、長野県南部に位置する伊那谷地方に古くから伝わる郷土料理です。主に馬の腸を材料とし、これを時間をかけてじっくりと煮込んで作られます。

この料理は、広義には「もつ煮込み」の一種として捉えられますが、伊那市や飯田市を中心とした伊那谷地域で特に深く根付いています。かつては伊那谷の中でも特定の地域で親しまれていましたが、近年では伊那谷の外、例えば上田市など他の長野県内各地でも提供される機会が増えてきています。

歴史的背景

伊那谷は、古くから馬との関わりが深い土地柄でした。歴史的に見ても、この地はかつて大和朝廷へ馬を献上していた産地であり、山間部の地形を活かした馬の飼育や、物資運搬を担う「中馬（ちゅうま）」といった馬を使った輸送が盛んに行われていました。このような環境が、馬の内臓を食する文化が生まれる土壌となったと考えられます。

明治時代後半になると、伊那谷で馬の内臓を食用とする習慣が広がり始めます。そして大正時代、飯田市松尾にあった一軒の食肉店が、馬の内臓を煮込んだ料理を商品として店頭で売り出したことが、おたぐりが地域に定着する大きなきっかけとなりました。販売が始まった当初は、「馬の煮付け」と呼ばれていたと伝えられています。

調理方法と名の由来

おたぐりを調理する際には、丁寧な下処理が非常に重要です。まず、馬の腸の内容物を取り除いた後、塩水などを使ってたわしで念入りに洗浄します。この徹底した洗浄作業を行うことで、腸特有の強い臭みを取り除くことができます。下処理を終えた腸は、その後、およそ4時間から5時間という長い時間をかけて、柔らかくなるまでじっくりと煮込まれます。

この料理の名前である「おたぐり」の由来にはいくつかの説がありますが、腸を下処理したり煮込んだりする際に、手で手繰り寄せるような動作を行うことから、この名前が付いたという説が広く知られています。

料理の特徴

おたぐりは、その独特の風味と食感を持つため、食べる人によって好みが分かれることもあります。しかし、適切な下処理と長時間かけて煮込むことで、気になる臭みが少なくなり、馬の腸ならではの深い旨味ととろりとした食感を味わうことができます。

特に日本酒との相性が非常に良いとされており、伊那谷地方の多くの居酒屋では、酒の肴として欠かせない定番メニューとして提供されています。薬味には、細かく刻んだネギや、お好みで一味唐辛子を添えるのが一般的です。

また、伊那谷の中でも地域によって味付けに違いがあるのも特徴です。伊那市を中心とする上伊那地方では、やや甘めの味噌味で煮込むのが主流である一方、飯田市を中心とする南信州地方では、あっさりとした塩味が好まれる傾向にあります。地域ごとの味の違いを楽しむのも一興です。

入手方法

現在、おたぐりは伊那谷各地の居酒屋や郷土料理店で広く提供されています。また、地元のスーパーマーケットや精肉店では、調理済みのおたぐりや、家庭で煮込むための生の馬の腸なども販売されています。さらに、インターネットを利用した通信販売も普及しており、伊那谷を訪れる機会がない人でも、全国どこからでもおたぐりを取り寄せて味わうことが可能になっています。

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