おれはミサイル

おれはミサイル

『おれはミサイル』は、秋山瑞人が手掛けた短編SF小説で、2003年度の星雲賞日本短編部門を受賞しています。この作品は、一人称視点で綴られているものの、人間は一切登場しない独特の設定が特徴です。初めての発表は2002年の『SFマガジン』であり、その後2010年にはハヤカワ文庫のアンソロジー短編集『ゼロ年代SF傑作選』、2011年には『戦争×文学 イマジネーションの戦争』に収録されました。

物語の概要

物語は『高々度十七空』と呼ばれる、高い空のどこかを舞台に展開されます。登場人物は、老朽化した全翼型ミサイル母機である『私』であり、数十年間にわたり、空を飛び続けてきました。『私』は、過去の作戦で僚機となった『エピオルニス』から、地面に対する理解が薄いことを指摘されます。『私』は、クラッターがレーダー上の背景雑像であることは知っているものの、「グランド」という概念には全く無知でした。

ストーリーが進む中で、耐久性を失いつつある『私』が、一人で飛行中に突如として声を聞きます。「貴様の名前は？」という問いかけは、『私』に新たな思索の扉を開くきっかけとなります。

登場キャラクター

• - 私: パーソナルネームは愚鳩（ドードー）。数百年の間、空を飛び続け、戦闘と補給を繰り返してきました。しかし、徐々に老朽化が進んでおり、故障率も高くなっています。『私』は自らの任務を忠実にこなすために、これまでの無知を超えて新たな気づきを得ようと奮闘します。
• - エピオルニス: 『私』の同型機で、『振り子時計』作戦に参加しました。地面の存在についての噂を語る彼は、『私』に新たな価値観をもたらします。
• - タンカー: 空中給油機で、燃料を補給するほか、ミサイルの補充も行います。彼は『私』と接触し、『私』の給油作業中に修理を行う頑固者です。
• - セラエンジェル: 敵の戦闘機で、執拗に『私』を追い詰めます。彼には特殊なレーダーシステムが装備されています。

詳細な内容

物語の中で、『私』は自己のアイデンティティや存在の意味を思索する過程を描写しています。長い飛行の歴史の中で、視覚的な周囲の世界と自らの使命が交錯する中、『私』は身近なミサイルたちとの対話を通じて、新たな視点を見出します。

一番パイロンに繋留されているIRM9 アイスハウンドは、『私』との「我先に撃ってくれ」という約束を交わし、敵機に命中することを願っています。彼は、自身の長い歴史を誇りに思いつつも、なぜこれまで発射されなかったのかを不思議に思っています。一方、RHM14 ピーカブーは、アイスハウンドを揶揄しつつも、自らの役割に対して強い意欲を持っています。彼らの交流は、戦争という現実が冷たく感じさせる中で、温かさをもたらします。

また、操作される対象としての自覚を持ち始めた『私』は、エピオルニスによって紹介された地面の概念を理解しようと努力します。果たして地面は存在するのか、あるいは自分たちの運命はどのように定められているのか。彼らの会話は単なる戦闘の準備にとどまらず、存在論的な問いかけへと発展していきます。

この短編小説は、空を舞台にした哲学的な探求を描いています。戦争の真実をめぐる深い洞察や、自己の存在を問い直す姿は、読者に思考を促し、心に残る印象を与えます。

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