お勢登場

『お勢登場』の概要

江戸川乱歩の短編小説『お勢登場』は、大正15年に発表された作品で、家庭の悲劇と人間の暗い部分を描いています。物語は、肺病に苦しむ格太郎が妻のおせいの不倫を知りながら、彼女との離婚ができずにいるところから始まります。

あらすじ

主人公の格太郎は、病によって生命が脅かされる中、自身の子供の将来を心配していました。彼は、妻のおせいが書生と不倫を繰り返していることに心を痛めつつも、家族を守るために婚姻関係を維持しようとしています。そんなある日、おせいが不倫相手の元へ出かけた後、格太郎は息子の正一とその友人たちと遊ぶことになり、かくれんぼを提案します。

格太郎は子供たちに隠れるため、部屋の押し入れに移動しますが、長持に入ってしまい、出口を塞いでしまいます。子供たちが退いた後、長持から出ようとするも、蓋が開かなくなってしまい、格太郎は中で絶望的な状況に陥ります。

一方、おせいが帰宅する頃、微かな呼び声を聞きつけて彼の助けを求める声に気付きます。しかし、葛藤の中でおせいは格太郎を助けることを躊躇し、彼を見捨てる決断を下します。罪の意識に苛まれつつ、持ち上げた蓋を閉じてしまったことで、格太郎の生死に関わる重大な選択をしなくてはならなくなります。

結局、格太郎は長持の中で息絶え、彼の死体が発見されます。その発見の際、長持の蓋の裏には彼の苦悶の跡である掻き傷が無数に刻まれており、その中には「オセイ」の名前が歪んで記されていました。この文字は、格太郎が自身の死の真相と向き合わせる証拠として残ります。この不気味な事実は、格太郎の弟である格二郎にはわずかにしか伝わらず、罪の意識や行動の真実を曖昧にしています。

物語の最後で、おせいは息子と共に新たな生活を始める一方、彼女の罪は決して消えることはなく、掻き傷のある長持が後に古道具屋に買われてしまいます。この長持は新たな持ち主に悪夢のような記憶を残すことでしょう。格太郎を見捨てたおせいの選択が、今後どのように影響を及ぼすのかは不明なままです。

登場人物

• - 格太郎：肺病を患い、家庭内の不幸に苦しむ主人公。
• - おせい：格太郎の妻で、他の男性と不倫を続ける女性。
• - 格二郎：格太郎の弟で、おせいとの関係に不満を抱いている。
• - 正一：格太郎とおせいの息子。

備考

本作のタイトルは、「お勢」が主人公であり、物語の主題を暗示しています。初刊ではおせいが主人公となる連作の第一作として構想されていましたが、その後の続編は書かれませんでした。この短編は、江戸川乱歩の他の短編作品とともに、様々な形式で映像化や舞台化されており、文学としての影響を与えています。

結論

『お勢登場』は、家庭内の秘密、心理的葛藤、そして人間の本質を探求する作品として、今もなお読者に衝撃を与え続けています。

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