お召

御召（おめし）

概要

御召は、日本の伝統的な衣服である和服に用いられる特別な絹織物です。同じく和服の主要素材である羽二重などと並び、最高級の地位を占めており、主に格式ばらない略礼装や、趣味性の高い洒落着として着用されます。縮緬の一種に分類されますが、その製法には独特の特徴があります。

名称の由来

「御召」という名称は、江戸幕府の第十一代将軍である徳川家斉がこの織物を特に好んで着用したことに由来すると伝えられています。将軍が「お召し」になった布地、という意味合いから、このように呼ばれるようになりました。

製法と特徴

御召は、織り上げる前に糸を染色する「先染め」の技法を用いて、平織りで織り上げられます。縮緬の特徴である表面の凹凸、通称「シボ」は、経糸と緯糸の撚りによって生み出されます。

一般的な縮緬では、経糸には撚りをかけず、緯糸にのみ右撚りと左撚りの糸を交互に用いることでシボを出します。しかし、御召では、経糸にも非常に強い撚り（「八丁撚り」と呼ばれる特殊な撚り方）をかけ、さらに緯糸には通常の縮緬に使う糸よりもさらに強い撚りをかけた「御召緯」（おめしぬき）という専用の糸を使用します。これにより、御召のシボは一般的な縮緬に比べてより大きく、はっきりとした独特の風合いとなります。

また、多くの絹織物は織り上げた後に全体を精練して余分なセリシン（絹のタンパク質）を取り除くのに対し、御召は織りに入る前に、糸の状態で精練を行います。この「先精練」の工程により、糸に含まれるセリシンが事前に除去されるため、織り上がった生地は硬く、適度なコシを持つしっかりとした地風に仕上がります。

風合いと用途

御召の生地は、通常の縮緬と比べてコシが強く、適度なハリがあります。それでいて、紬のような硬さではなく、着る人の体に程よく馴染むしっとりとした風合いを持ち合わせています。この特性により、一度着付けをすると着崩れしにくく、裾さばきも良いため、活動的な場面や、歩き回る機会の多い洒落着として非常に適しています。

和服の世界では、一般的に生地を染めた「染め物」の方が、糸を織って柄や色を出した「織り物」よりも格が高いとされ、礼装には染め物が用いられることが多いです。その中で御召は、織物でありながら非常に高い格を持つとされており、今日でも紋付きの色御召などが略礼装として広く用いられています。江戸時代においては、さらに礼装としての用途も一般的でした。

主な産地と種類

御召の発祥は、徳川家斉が特に好み、「御止め柄」と称される納戸色に白の細格子縞を定めたとされる桐生（現在の群馬県桐生市）です。現在では、京都の西陣、新潟県の十日町や塩沢、山形県の米沢など、全国の主要な織物産地で生産されています。

御召の中でも特別なものとして、「風通御召」（ふうつうおめし）があります。これは、経糸と緯糸を二重に用いて、生地の表裏が袋状になるように織り上げる技法を用いたものです。この製法により、生地が比較的軽く、また皺になりにくいという利点があり、御召の中でも特に高級品とされています。

新潟県南魚沼市で生産される「塩沢御召」は、その伝統的な技術と品質が高く評価され、1976年には国の経済産業大臣指定伝統的工芸品に指定されました。

もう一つ特徴的な御召に、「マジョリカ御召」があります。これは、銀糸などの金属糸を用いて、主にアラベスク調など洋風の複雑な柄を織り出したものです。イタリアのマジョリカ陶器（マヨリカ焼き）の装飾的なイメージを取り入れてデザインされたことからこの名が付けられました。主に十日町で、1959年から約4年間という短い期間に集中的に生産され、当時非常な流行を見せました。現在では新規に生産されることはほとんどありませんが、アンティーク着物やリサイクル品として中古市場でしばしば見かけることがあります。

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