お蔵出し映画祭

お蔵出し映画祭（おくらだしえいがさい）は、2011年から2015年までの5年間、広島県尾道市と福山市を舞台に開催された特色ある映画祭です。この映画祭の最大の特徴は、一般の劇場では公開される機会を得られなかった日本映画に焦点を当て、新たな上映の場を提供した点にあります。

コンセプトと背景

日本国内では年間およそ400本もの長編映画が制作されていると言われますが、その全てが商業公開に至るわけではありません。多くの作品が完成しても配給・上映の機会に恵まれず、いわゆる「お蔵入り」となってしまう現状があります。お蔵出し映画祭は、こうした「眠っている」作品の中に埋もれている可能性のある優れた作品に光を当て、「もしかしたら公開すべき作品があるのではないか」という想いから企画されました。

応募資格の第一条件は、日本映画であること、そして劇場での一般公開がされていないことでした。文字通り、「公開のめどが全く立っていない」作品や、「完成から何年も経って日の目を見ていない」作品を積極的に募集し、映画祭の場で上映することを主な目的としていました。そのユニークかつ率直なアプローチから、「不良債権映画祭」という別名でも語られることがありました。

各回の開催概要

映画祭は毎年秋（主に10月、第3回・4回は9月、第5回は11月）の3日間にわたって開催され、尾道市や福山市内の複数の会場を使用して行われました。コンペティション部門が設けられ、ノミネート作品の中からグランプリや審査員特別賞、観客賞などが選出されました。また、コンペ作品とは別に、特別上映作品もラインナップされていました。

第1回（2011年）:
10月13日から16日にかけて開催。シネマ尾道やシネマモードといった映画館に加え、しまなみ交流館、浄土寺、みろくの里、ベラビスタ境ガ浜など多様な場所が会場となりました。コンペ部門ノミネート作品には『宮城野（ディレクターズ・カット版）』『しあわせカモン』『うきしま』などがあり、グランプリは『しあわせカモン』、審査員特別賞は『宮城野』、観客賞は『ふるり』が受賞しました。

第2回（2012年）:
10月12日から14日の日程で開催。尾道市内の施設を中心に、前年に引き続きシネマ尾道、シネマモードの他、県営上屋2号倉庫や尾道商業会議所記念館などが使用されました。オープニングセレモニー後には、前回のグランプリ作品『しあわせカモン』が特別上映されました。コンペ部門グランプリは『いのちの林檎』が獲得し、『ふるさとがえり』が審査員特別賞と観客賞を同時受賞しました。

第3回（2013年）:
9月21日から23日に開催。コンペ部門ノミネートには『朽ちた手押し車』『ソクラティック・ラブ』『ナンバーテン・ブルースさらばサイゴン』などがありました。グランプリと観客賞を『朽ちた手押し車』が受賞。審査員特別賞は『果てぬ村のミナ』、市民審査員賞は『ナンバーテン・ブルースさらばサイゴン』でした。

第4回（2014年）:
9月21日から23日の日程で開催。コンペ部門には『スイートハート・チョコレート』『多摩川サンセット』『ぼくら（半径3キロの世界/プリンの味）』などがノミネートされました。グランプリは『スイートハート・チョコレート』、審査員特別賞は『Dressing UP』、観客賞は『ぼくら（半径3キロの世界/プリンの味）』が受賞しました。

* 第5回（2015年）:
11月6日から8日に開催された最終回。コンペ部門ノミネート作品には『こおろぎ』『ゾウを撫でる』『トマトのしずく』などがありました。グランプリと観客賞は『トマトのしずく』、審査員特別賞は『ゾウを撫でる』が選ばれました。

映画祭の意義

お蔵出し映画祭は、完成しながらも陽の目を見なかった多くの日本映画にとって、観客と出会う貴重な機会を創出しました。制作者にとっては作品を上映できる喜びや評価を得るチャンスとなり、観客にとっては通常の配給ルートでは出会えない多様な作品を発見する場となりました。映画文化の裾野を広げ、埋もれた才能や作品を発掘しようとするその試みは、多くの映画ファンや関係者から注目を集めました。

残念ながら、このユニークなコンセプトを持った映画祭は、2015年の第5回をもってその歴史に幕を下ろしました。しかし、そこで上映された作品や、映画祭が提供した機会は、日本のインディペンデント映画シーンにおいて一定の足跡を残したと言えるでしょう。

本映画祭に関連する情報は、公式サイトや公式X（旧Twitter）アカウントなどで確認できる場合があります。

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