かすが (列車)

急行「かすが」：関西本線を駆け抜けた名列車の軌跡

「かすが」は、名古屋と奈良・大阪を関西本線経由で結んでいた、国鉄そしてJR東海・JR西日本が運行した急行列車です。本稿では、その歴史と、中京圏と近畿地方を関西本線経由で結んでいた他の優等列車との関連についても解説します。

誕生から全盛期へ

「かすが」の起源は、1930年（昭和5年）に国鉄が大阪電気軌道・参宮急行電鉄（後の近畿日本鉄道）に対抗して設定した快速列車にまで遡ります。名阪間の輸送力増強を目的とし、東海道本線に代わり、より短距離の関西本線が選ばれました。戦時中の運行休止を経て、1949年（昭和24年）に臨時準急として復活、同年9月には定期列車化されました。

当時、関西本線名古屋～湊町（現在のJR難波）間は、東海道本線名古屋～大阪間より短く、東海道本線の電化未完了や近鉄の乗り換えの必要性といったハンデを克服する路線として機能しました。1955年（昭和30年）には初めて気動車を導入し、1956年（昭和31年）にはスピードアップを実現、近鉄を上回る運行時間となりました。

衰退と廃止

しかし、東海道本線の電化完成、特急「つばめ」「はと」や準急「比叡」の登場により、「かすが」は次第に競争力を失っていきました。近鉄も車両の近代化や乗り換え改善で対抗してきたことも、その衰退を加速させました。1960年代以降はローカル急行としての地位に甘んじ、他路線の準急との併結運転開始により所要時間も増加。さらに、東海道新幹線や名阪[[国道]]の開通も追い打ちをかけ、利用客は減少の一途を辿りました。

1963年（昭和38年）からは名古屋～奈良間の運転が開始され、湊町駅まで運行される列車は減少。1968年（昭和43年）には奈良駅以西が快速に格下げされ、1973年（昭和48年）の奈良駅～湊町駅間の電化完成を機に、全列車が奈良駅発着となりました。その後も減便が続き、併結運転廃止、キハ75形への車両変更などを通して所要時間は改善されたものの、大きな飛躍はありませんでした。そして、2006年（平成18年）3月、最後の1往復が廃止されました。

運行概要と停車駅

定期列車化当初は3往復という、地方幹線としては異例な運行本数でした。最盛期には最大8往復が運行されましたが、1985年3月以降は1往復のみとなり、朝出発、夕方到着のダイヤが組まれていました。停車駅は名古屋、桑名、四日市、亀山、柘植、伊賀上野、奈良の各駅で、梅や桜の季節には臨時停車駅もありました。

使用車両

当初は蒸気機関車牽引の客車でしたが、1955年から気動車の試験導入が始まり、1956年にはキハ51形などへの全面置き換えが完了しました。その後、キハ55系、キハ58系と車両更新を重ね、冷房化も実現しましたが、利用客減少によりグリーン車連結は廃止されました。1986年以降はキハ58系・キハ65系、1999年からはキハ75系が使用され、廃止直前まで2両編成（多客期は4両編成）で運行されました。キハ75形は、3扉車、転換クロスシートという特徴を持ち、快速「みえ」で使用されていた車両を改造して運用されていました。

関西本線経由の他の優等列車

「かすが」以外にも、関西本線経由の優等列車は存在しました。

準急「平安」：1962年運行開始、名古屋～京都間を関西本線・草津線経由で結んでいましたが、1985年に「志摩」に統合され廃止されました。
特急「あすか」：1965年運行開始、名古屋～和歌山間を関西本線・阪和線経由で運行されましたが、利用客獲得に失敗し、1967年に廃止されました。

これらの列車も「かすが」と同様に、東海道新幹線や東海道本線の優等列車との競争に敗れ、短命に終わりました。

復活への動き

2023年末、三重県、伊賀市、亀山市、JR西日本、JR東海の間で、名古屋～奈良間の直通列車復活に向けた検討が進められていることが報道されました。2025年2月には名古屋～伊賀上野間の運行が予定されており、約19年ぶりに亀山駅を跨ぐ列車が復活する見込みです。

「かすが」の物語は、単なる列車の歴史にとどまらず、交通事情の変化や地域社会の変遷を映す鏡と言えるでしょう。その復活は、過去の遺産を未来へと繋ぐ、重要な試みとなるに違いありません。

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