がめつい奴

がめつい奴

『がめつい奴』は、作家菊田一夫による戯曲であり、同名の映画やテレビドラマの原作でもあります。この作品は1959年に芸術祭主催の公演用に制作され、後の演劇史において特筆すべきロングランを記録することとなります。特に、釜ヶ崎という特定の地域の人々の日常を描くことにより、多くの観客の共感を得ました。

背景と経緯

1950年代半ば、戦後の大阪・釜ヶ崎地域を舞台としたこの作品は、経済的な苦境にある人々の生活を生々しく描いています。全編を通じて関西弁が使用され、登場人物たちの感情や生活感が強調されることで、観客は彼らの人生に強く引き込まれます。菊田はこの戯曲を書くにあたり、実在の人物を参考にしながら作品を練り上げました。

公演は1959年10月から1960年7月まで続き、270日間にわたるロングラン記録を達成。主演の三益愛子や子役の中山千夏の演技が観客から高く評価され、観客動員数は20万人を超えました。この成功を受け、菊田は続編を期待しつつも、次回の公演を取りやめる決断を余儀なくされるなど、さまざまな影響が及ぼされました。

作品内容

物語は、お鹿婆さんこと向山鹿が営む「釜ヶ谷荘」を中心に展開します。彼女は高利貸しを行いつつ、戦災孤児のテコを育てるなど多面的な人間像が描かれます。周囲には、彼女と共に生きる人々が集まり、いずれも独特のキャラクターを持っています。例えば、占い師のおたかや、マッサージ師の圭子、さらには美人局に関わる通天閣の雄など、個性的な人物が群像劇のように織り成す物語が展開されます。

この作品の特徴は、欲望や人間関係、経済的格差をテーマにしながらも、登場人物たちの葛藤や愚かさ、そして同時に愛情に満ちた瞬間が描かれている点です。これは、ただの社会的な問題を扱うだけでなく、人間の本質をも問う深い作品となっているのです。

言葉の創造

また、菊田はこの作品で「がめつい」という言葉を造語しました。この表現は、強欲で狡猾な性格を指し、戦前の辞書には載っていなかった、菊田ならではの新しい言葉です。この言葉は以後、広く使われるようになり、作品の象徴でもあります。

映画とテレビドラマ化

『がめつい奴』は、1960年には映画化され、千葉泰樹が監督しました。主なキャストは舞台版と同じ顔ぶれが揃い、特に三益愛子が再び向山鹿を演じるなど、ファンの間で話題になりました。また、テレビドラマ化もされ、1964年及び1970年にそれぞれ異なる制作陣によって放送されました。どのメディアにおいても、原作の魅力を引き出す工夫がされ、多くの人々に感動を与えました。

結論

『がめつい奴』は、戦後日本における経済的格差を描くだけでなく、登場人物たちの人間味あふれる生き様に焦点を当てた作品です。菊田一夫の手によるこの戯曲は、観客や視聴者に強い影響を与え続け、今なお多くの人に親しまれています。

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