きけ わだつみのこえ

書籍『きけ わだつみのこえ』の詳細

『きけ わだつみのこえ』は、第二次世界大戦の末期に戦没した学徒兵たちの遺書を集めた遺稿集です。本書は、日本の学生たちがいかに悲劇的な状況に置かれ、心の中で葛藤していたのかを伝えています。1949年に出版されたこの書籍には、全国の大学や高等専門学校出身の75人の遺稿が収められています。

背景と編纂の経緯

本書は、東京大学協同組合出版部が編集したもので、大学生たちが戦争に巻き込まれる悲惨さを記録することを目的としています。編集方針には「平和への訴え」というテーマが掲げられ、学生たちの思いを未来に伝える手段として意義があります。

1947年に出版された『はるかなる山河に』の次に続く書籍として、全国から寄せられた遺稿が集められました。編集にあたったのは、戦没者の遺族や学者たちであり、彼らは遺族の思いを大切にしながら編集作業に取り組みました。特に、医師であり戦没学徒の遺族である中村克郎が主任として関与し、他にも渡辺一夫、真下信一、小田切秀雄、桜井恒次といった著名な人物が編集委員として参加しました。

タイトルの由来

『きけ わだつみのこえ』というタイトルは、全国から募集された書名候補から選ばれたものです。応募作の中でも、「はてしなきわだつみ」という元々のタイトルに添えられた短歌が特に印象的であり、海神を意味する「わだつみ」という古語が使用されています。この詩は、本書の巻頭に記載されています。

学徒兵の思いとその評価

本書に収められた遺稿は、戦争という異常な状況に直面した若者の素直な思いと苦しみが描かれており、彼らがどのような感情で戦場に立っていたのかを知る手がかりとなります。多くの学徒兵は学業の途中で命を絶たれ、本来ならば平和な社会で活躍したであろう若者たちの姿を浮かび上がらせています。彼らの声は、当時の軍国主義的価値観を覆し、深い感情に触れるものとなりました。

反響と続編

1963年には、続編として『戦没学生の遺書にみる15年戦争』が出版され、後に『第2集 きけ わだつみのこえ』と改題されました。この続編にも、戦争の悲惨さや学徒兵の思いが盛り込まれています。また、本書の刊行を契機に、1950年に日本戦没学生記念会（わだつみ会）が結成され、戦没者を記憶し、平和の大切さを考える場が設けられました。

評価と歴史的意義

本書は、ただの遺稿集にとどまらず、戦後の平和運動にも影響を与える重要な資料とされています。学徒兵たちの声は、戦争の意味を問い直し、未来の世代に引き継がれるべきメッセージとして受け止められています。また、出版をめぐってさまざまな論争や改変の疑惑が発生するなど、歴史的にも注目されています。

編集方針と批判

編集方針に対しては賛否があります。民衆の戦争観からの視点が欠けているとの批判や、内容の改変が行われたとの指摘も存在しますが、その一方で、学生たちの共有する軍国主義批判の姿勢が反映されていることも強調されています。これらの複雑な背景は、戦争を経た日本社会における知識人の役割や価値観について考察する上で重要です。

映画化や展示

本書に関連する作品は映画化されており、戦没者の記憶を広める手段としても機能しています。また、遺稿集の収入を元に、「わだつみ像」が制作され、京都市北区の立命館大学国際平和ミュージアムに展示されています。これにより、戦没学生の思いがより多くの人々に伝わり、未来への教訓となることが期待されています。

本書は、戦争という悲劇を抱えながらも未来を見つめる視点を提供する貴重な資料です。

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