小田切秀雄

小田切秀雄（1916年9月20日 - 2000年5月24日）は、日本の文芸評論家、近代文学研究者であり、法政大学の名誉教授でした。彼の生涯は、激動の昭和という時代と深く結びついており、その思想や評論活動は、文学界だけでなく、社会全体にも大きな影響を与えました。

生い立ちと学生時代

1916年、東京に生まれた小田切は、府立高等学校を経て、法政大学に進学しました。しかし、学生時代には共産党グループの活動に参加したことで、治安維持法違反で逮捕されるという経験をしています。この事件を機に、彼は一時的に転向を表明しますが、後に再びマルクス主義的な思想に立ち返ることになります。この経験は、彼の思想形成に大きな影響を与えたと考えられます。

戦中から戦後へ

1941年には『万葉の伝統』で注目を集めましたが、1943年に応召。1944年には、マルクス主義文学研究会での活動が原因で再び逮捕されますが、結核により勾留停止となり釈放されました。戦後は、雑誌『近代文学』の創刊に参加し、評論活動を本格化させます。戦時中は翼賛的な作品を書いていた時期もありましたが、戦後は戦争責任を追及する姿勢に転じました。この転向は、彼に対する批判も生むことになりましたが、彼の評論活動の根底には、常に社会変革への強い意志があったと考えられます。

大学教授として

法政大学では教授として教鞭をとり、1965年の学園紛争時には総長代行を務めるなど、大学運営にも深く関わりました。教育科学研究会・国語部会にも協力し、長年にわたり機関誌『教育国語』に文芸学や作品鑑賞論などを連載しました。教育者としての側面も持ち合わせており、後進の育成にも力を注ぎました。

評論活動

小田切の評論活動は、古典から現代作家まで幅広い分野に及びました。特に、マルクス主義芸術論に基づいた評論が多く、社会主義リアリズムの観点から文学作品を分析しました。彼の評論は、社会構造や歴史的背景を考慮しながら文学作品を読み解くという視点を提供し、多くの読者に影響を与えました。

三島由紀夫とのエピソード

小田切は、三島由紀夫を共産党に勧誘したという逸話が残っています。このエピソードは、三島自身も回顧しており、人生で最も稀有な誘いの一つとして語られています。しかし、小田切自身は、本気で三島を入党させるつもりはなかったと述べています。このエピソードは、二人の思想的な立場の違いを象徴する出来事として、しばしば引用されています。

受賞と著作

1975年には芸術選奨文部大臣賞に選ばれましたが辞退しました。1988年には『私の見た昭和の思想と文学の五十年』で毎日出版文化賞を受賞しました。彼の著作は、『小田切秀雄全集』全18巻としてまとめられており、その評論活動の全貌を知ることができます。

多面的な人物像

小田切秀雄は、文学者、教育者、評論家として、多面的な活動を行いました。彼の生涯は、昭和という激動の時代を生き抜いた一人の知識人の姿を映し出しています。その思想や評論活動は、今日でもなお、多くの人々に影響を与え続けています。彼の功績は、日本の文学史、思想史において、重要な位置を占めるものと言えるでしょう。

彼の墓所は、神奈川県小田原市の高長寺にあります。

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