きつね (麺類)

うどんやそばの種物として、甘辛く味付けされた油揚げを用いたものを「きつね」と呼びます。一般的にはかけうどんやかけそばの上にこの油揚げを乗せたものを指し、「きつねうどん」「きつねそば」として広く知られています。ただし、この「きつね」が具体的に何を指すか、またその名称は地域によって多様な違いが見られます。

調理法と特徴

きつねに使われる油揚げは、そのまま使用するのではなく、まず丁寧に湯で油抜きを行います。その後、砂糖や醤油、みりんといった調味料を用いて、甘辛く味がしっかりと染み込むように煮込まれます。この甘辛い味付けの油揚げが、麺のつゆと合わさることで独特の風味を生み出します。つゆは、一般的に濃口醤油と鰹節を中心とした、比較的しっかりとした味わいのものが使われます。温かいかけうどん・そばとして食されるのが一般的ですが、冷たいメニューや鍋物の具材として用いられることもあります。

歴史的背景

きつねうどんの誕生については複数の説が存在し、その起源は特定されていません。多くの説では、江戸時代あるいは明治時代初期に大阪で生まれたとされています。中でも、明治26年（1893年）創業の大阪市船場にあるうどん店「松葉家」が、油揚げを乗せたうどんを考案したという説が広く語られており、同店には「大阪きつねうどん」の石碑が建立されています。明治期には既に大阪で油揚げを使ったうどんが一般的であったことが、作家の古川ロッパのエッセイからも伺えます。
一方で、大阪より古く、江戸時代には既に江戸で油揚げを具材としたそばが存在していたとする説も存在します。文献に基づけば、江戸の方が歴史が古い可能性も指摘されています。また、きつねうどんが先に登場し、後にきつねそばが派生したとする解説も見られます。

名称の由来

「きつね」という名称がつけられた由来も諸説ありますが、最もよく知られているのは、油揚げがキツネの好物であるとされることにちなむという説です。これは、同じく油揚げを使う稲荷寿司の名称由来とも共通しています。別の説としては、油揚げの色合いがキツネの毛色に似ていることや、油揚げを丼の中でうずくまったキツネの姿に見立てたことから名付けられたという説も存在します。

別称と地域による多様性

「きつね」は地域や話し手によって様々な別称で呼ばれることがあります。発音の訛りとして「けつねうどん」あるいは単に「けつね」と呼ばれることもあります。
また、「しのだ」という名称も広く用いられます。「信太」「信田」「志乃田」と表記されることもあり、これは大阪府和泉市に伝わる「信太の森の葛の葉」伝説に登場するキツネに由来するとされています。
さらに、「はいから」と呼ばれる地域も存在しますが、これは地域によっては「たぬきうどん」を指す場合もあり、混同が見られます。

最も顕著な地域差は、麺の種類と名称の組み合わせに見られます。

各地方の特徴

東京

江戸時代には既に油揚げを具材としたそばが存在し、夜鳴き蕎麦の種物としても親しまれていました。ネギと共に油揚げを用いたそばが文献に登場するなど、その歴史は古いです。江戸風俗研究家によれば、東京ではきつねは単品で食されることが多いとされています。また、揚げ物にはごま油が使われることが多く、その風味や味わいには地域性が現れます。即席めんにおいても、東日本向けと西日本向けで油揚げの食感や味が異なる例が見られます。

京都

京都では、発音の訛りとして「けつね」とも呼ばれます。また、「信太の森の葛の葉狐」伝説にちなんで「しのだ」とも呼ばれることがあります。京都のきつねうどんには、味付けされた三角形の油揚げを乗せたもの（「甘ぎつね」）と、味付けされていない刻んだ油揚げを乗せたもの（「刻みきつね」、あるいは単に「きつね」）の二種類があるのが特徴です。

大阪

大阪を中心とする近畿地方では、全国的に「きつねそば」と呼ばれているものを「たぬき」と称するのが一般的です。近畿地方において、甘辛く煮た薄切りの油揚げを乗せたものを、うどんなら「きつね」、そばなら「たぬき」と呼ぶことが標準的であり、「きつねそば」や「たぬきうどん」という名称のメニューは通常、存在しません。ただし、一部地域や店舗では京都のように異なる場合もあります。「けつね」という呼び方も親愛を込めた訛りとして、あるいは軽い冗談として使われることがあります。大阪でも「しのだ」という名称が使われることもあります。

即席めんとしての展開

「きつねうどん」「きつねそば」は即席めんとしても非常に人気があり、各社から様々な商品が発売されています。代表的なものに日清食品の「どん兵衛」や東洋水産の「赤いきつね」「紺のきつね」があり、全国的に広く親しまれています。これらの商品の中には、地域によって味付けや具材を変えているものもあります。その他、天ぷらと油揚げの両方を乗せたそばや、地域限定で愛される商品も存在します。

もう一度検索