くらやみの速さはどれくらい

くらやみの速さはどれくらい

『くらやみの速さはどれくらい』は、アメリカの作家エリザベス・ムーンによるSF小説で、特に自閉症を持つ人々の視点が巧みに描かれています。この作品は、2003年にネビュラ賞を受賞し、アーサー・C・クラーク賞の最終選考にも残るなど、高い評価を受けています。ムーンは、自閉症の息子からインスピレーションを受け、その息子が口にした「くらやみの速さはどれくらい？」という言葉をもとに、物語を紡ぎ出しました。これは、光がどれほど速く進むとしても、その先には常に闇が存在するという考えから生まれたものです。

ムーンはこの作品を通じて、自閉症の人々が持つ独特の感受性や日常の難しさを表現しようとしました。彼女は、多くの自閉症患者にインタビューを行い、彼らの体験を物語に織り込むことで、読者に新たな視点を提供しています。

あらすじ

物語の主人公はルウ・アレンデイルというバイオインフォマティクスの専門家である彼は高機能自閉症の患者でもあります。ルウの生活は一見順調に見えますが、新たに任命された上司が、自閉症者が多数働く部署に圧力をかけ始めたことから、彼の日常は一変します。上司の圧力により、ルウは自閉症の新しい治療を受けるよう強く促されます。

ルウは治療を受けるべきか、あるいはその提案を拒否すべきかで葛藤しながら、健常者とフェンシングを行い、職務を続ける日々を送ります。彼の周囲の同僚たちも同様に、この治療の受け入れについて深く話し合い、意見を交わします。このように、物語はルウとその同僚たちが抱えるジレンマを中心に進行し、彼らの倫理的な選択が描かれていきます。

この小説は、自己理解と他者とのつながりをテーマにし、自閉症に対する社会的な偏見や理解不足を浮き彫りにします。特に、タイトルに秘められた「くらやみ」というキーワードは、主人公たちが直面する内面的な葛藤や社会の暗部を象徴しています。自閉症患者がどのように個々の感受性を生かし、社会に適応していくのか、またそれに対する社会の理解がいかに重要であるかを問いかける内容となっています。

書誌情報

『くらやみの速さはどれくらい』は、小尾芙佐による日本語訳で、早川書房の海外SFノヴェルズとして2004年10月に出版されました。ISBNは4-15-208603-3です。また、2008年12月にはハヤカワ文庫SF1693としても刊行され、ISBNは978-4-15-011693-4となっています。彼女の訳により、原作の魅力が日本の読者にも伝わっています。

エリザベス・ムーンの独自の視点が光るこの作品は、自閉症者が持つ視点の重要性や、彼らが直面する日常の挑戦について深く考えさせられる一冊です。

もう一度検索