けんかえれじい

『けんかえれじい』：青春、喧嘩、そして時代のうねり

『けんかえれじい』は、1966年に公開された鈴木清順監督による映画作品であり、その名を冠した鈴木隆の小説を原作としています。小説は、上下巻に分冊された複数の版が刊行され、広く読まれました。映画版は日活が製作し、鈴木清順監督、高橋英樹主演で話題を呼びました。同時期に公開された『続東京流れ者　海は真っ赤な恋の色』と2本立てで上映され、多くの観客を魅了しました。

映画『けんかえれじい』：新藤兼人脚本、鈴木清順演出

映画『けんかえれじい』の脚本は新藤兼人が執筆しましたが、鈴木清順監督は脚本に大幅な改変を加えました。原作や脚本にはない北一輝が登場するシーンを追加するなど、監督独自の解釈が加えられています。高橋英樹演じる主人公・南部麒六は、旧制中学でケンカに明け暮れる少年です。鈴木監督の演出は、即興的な要素も多く、俳優たちは状況に対応しながら演技を進めました。高橋英樹自身は完成した作品を高く評価しましたが、脚本の新藤兼人は、自分の作品とは異なるものになったことに不満を感じたと言われています。

映画の後半では、北一輝が登場します。麒六は北一輝との出会いをきっかけに、新たなケンカ、より大きな闘いへと向かいます。これは、当時台頭しつつあった学生運動のエネルギーを、鈴木監督が作品に反映させた結果と言えるでしょう。北一輝が出没するカフェのシーンは、独特の照明と演出によって、異界のような雰囲気を作り出しています。松尾嘉代演じるみさ子は、手の平を見せないことで幽霊であることを暗示するなど、細部にわたる演出が光ります。このシーンは、後の鈴木清順作品、『ツィゴイネルワイゼン』や『陽炎座』へと繋がる「清順スタイル」の原点と言えるでしょう。

北一輝を演じた緑川宏は、鈴木清順作品に欠かせない名脇役として活躍しました。しかし、鈴木監督の日活解雇後、精神を病み、悲劇的な最期を遂げます。

日活解雇後、鈴木清順と盟友たちが『続・けんかえれじい』の脚本を執筆しましたが、映画化されることはありませんでした。この続編では、二・二六事件後の主人公の急激な右傾化や日中戦争への関与が描かれる予定だったと言われています。

ストーリー：ケンカと青春、そして旅立ち

主人公・南部麒六は、穏やかな性格の少年でしたが、ケンカの才能を開花させ、学校一の勢力にまで上り詰めます。しかし、軍事教練の教官と衝突し、故郷を離れます。新たな土地で、彼は新たなケンカ、新たな敵と出会い、成長していきます。北一輝との出会い、そして恋の破局を経て、麒六は東京へと旅立ちます。この旅立ちには、より大きなケンカ、そして時代を揺るがす大きなうねりへの挑戦が込められているように見えます。

スタッフとキャスト

映画『けんかえれじい』は、鈴木清順監督をはじめ、新藤兼人（脚本）、萩原憲治（撮影）、木村威夫（美術）、山本直純（音楽）など、錚々たるスタッフによって制作されました。高橋英樹、浅野順子、川津祐介、松尾嘉代ら、個性豊かなキャスト陣が作品に彩りを添えています。

その他のメディア展開

『けんかえれじい』は、小説、映画に加え、1973年にはNHK少年ドラマシリーズとしても放送されました。様々なメディアで展開されたことで、作品の世界観は、より多くの人々に受け継がれていきました。現在でも、多くのファンに愛される作品となっています。

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