こぐま座デルタ星

こぐま座δ星（イルドゥン）

概要

こぐま座δ星は、こぐま座を構成する恒星の一つで、夜空では4等星として観測されます。見かけの等級は約4.35等と、肉眼でも光害の少ない場所であれば確認可能な明るさです。星座の中では、こぐま座の柄の付け根に近い部分に位置しており、有名な北極星であるポラリス（こぐま座α星）と共に、こぐま座の主要な星を形作っています。

天文学的な位置

この星の特に重要な点は、天の北極との位置関係です。現在の天の北極、すなわち地球の自転軸が天球と交わる点は、北極星ポラリスの非常に近くにありますが、厳密にはポラリスとこのこぐま座δ星（イルドゥン）の間に位置しており、ほぼ二つの星の中間点にあたります。このため、ポラリスとイルドゥンの位置を把握することは、夜空で天の北極の正確な方向を知る上で役立ちます。地球の自転軸は歳差運動により非常にゆっくりと向きを変えており、それに伴って天の北極の位置も移動します。現在、天の北極はポラリスに最も近づいている時期ですが、将来的には再び遠ざかり、数千年後には別の星が新たな北極星となる時代が訪れます。現在の夜空においては、ポラリスとイルドゥンが天の北極を探すための良い目印となっています。

名称

こぐま座δ星には、学名と固有名があります。
学名としては、δ UMiやδ Ursae Minorisといった符号で呼ばれます。これは星座名とギリシャ文字を組み合わせた、恒星を特定するための標準的な命名法に基づいています。

この星にはまた、「イルドゥン（Yildun）」という固有名が与えられています。

固有名「イルドゥン」の由来

「イルドゥン」という固有名は、トルコ語に由来しています。具体的には、トルコ語で「星」という一般的な意味を持つ単語「yıldız」がその語源とされています。

この一般名詞が特定の恒星の名前として定着した背景には、歴史的な誤解があったと考えられています。特にヨーロッパのルネサンス期において、トルコ語の「yıldız」という言葉が、あたかも特定の明るい星、特に天測の基準となる重要な星（北極星など）を指す固有名詞であるかのように誤って解釈された時期があったと言われています。この誤解が元となり、「イルドゥン」という名前がこのこぐま座δ星に結びつけられ、使われるようになったと考えられています。

IAUによる正式承認

現代において、「イルドゥン」という名称は、国際的に公式な恒星の固有名として認められています。国際天文学連合（IAU）は、恒星の固有名称を整理・標準化するために、恒星の命名に関するワーキンググループ（Working Group on Star Names, WGSN）を設置しています。このWGSNによる検討の結果、2016年8月21日に「Yildun」はこぐま座δ星の固有名として正式に承認されました。これにより、「イルドゥン」は天文学の分野における公的な名称の一つとして確立されました。

まとめ

こぐま座δ星、すなわちイルドゥンは、こぐま座において4等星の明るさで輝く恒星です。現在の天の北極がポラリスとイルドゥンの間に位置しており、天測を行う上での指標となります。その固有名「イルドゥン」は、トルコ語の「星」という一般名詞が歴史的な誤解を経て定着したというユニークな由来を持ち、現代においては国際天文学連合によって正式名称として承認されています。夜空を眺める際に、ポラリスの近くに輝くこのイルドゥンにも目を向け、その天文学的な位置づけや、名前に秘められた歴史に思いを馳せてみるのも良いでしょう。

もう一度検索