こそあどの森の物語

こそあどの森の物語

児童文学作家・岡田淳氏によって生み出された人気ファンタジーシリーズ、『こそあどの森の物語』は、理論社から刊行されています。1994年に最初の巻が登場して以来、読者を魅了し続け、本編は2017年に一段落しましたが、その後も新しい短編集が発表されるなど、今なお多くの人々に愛されています。

物語の舞台となるのは、「こそあどの森」と呼ばれる独特な場所。それは具体的などこかの森ではなく、まるで読者の心の中に存在するような、不思議な魅力に満ちた空間です。この森には、一風変わったけれど温かい心を持った住人たちが暮らしており、彼らの日常や、そこで巻き起こる様々な出来事が、豊かで想像力あふれる筆致で描かれています。

シリーズの中心となるのは、森に建つ「ウニマル」というユニークな家に住む少年、スキッパーです。博物学者であるバーバさんと暮らしていますが、バーバさんは世界中を旅することが多いため、スキッパーは一人で過ごす時間も少なくありません。読書や星を眺めるのが好きなスキッパーは、バーバさんの豊富な蔵書から多くの知識を得ており、物知りな一面を持っています。

スキッパーの友人には、湖の島にある巻貝のような家に住む双子の女の子がいます。いつも一緒にいて見分けがつかない双子は、気分次第で名前を変えたり、お菓子のようなものばかり食べたりと、その行動はどこか掴みどころがありませんが、ヨットを操る腕前は確かです。

こそあどの森には他にも個性的な住人がたくさんいます。木の上の屋根裏部屋に住む作家のトワイエさん。湯わかしのような家に住み、お客をもてなすのが大好きなトマトさんと、その夫で農作業にいそしむポットさん。ガラス瓶の家に住む、皮肉屋ながらもハーブと詩を愛するスミレさんと、寡黙な大工の弟ギーコさん。それぞれの家もまた、彼らの個性を映し出すかのように風変わりな形をしています。

これらの主要な住人たちの他に、森に手紙を運ぶ郵便局員のドーモさんや、不思議な笛吹きコンビのナルホドとマサカ、スキッパーが出会うウサギと呼ばれる少女、そして人間の言葉を話し、尾が光る神秘的なホタルギツネなど、物語を彩る魅力的なキャラクターたちが多数登場します。彼らが織りなす物語は、時にファンタジックで、時に少し不思議で、そして常に温かい感動に満ちています。

『こそあどの森の物語』は、その優れた文学性が高く評価されており、1995年には第1巻から第3巻までが「野間児童文芸賞」を受賞しました。さらに1998年には、「国際アンデルセン賞」のオナーリストにも選定されるなど、国内外でその質の高さが認められています。また、このシリーズは演劇の世界にも広がりを見せており、『はじまりの樹の神話』は劇団四季によって舞台化され、多くの観客に感動を与えました。

このシリーズは、子どもから大人まで、読む人それぞれが「こそあどの森」の世界に引き込まれ、そこに暮らす人々の営みや、森で起こる出来事を通じて、大切な何かを感じ取ることができる作品です。個性を受け入れ、共に生きることの豊かさ、そして日常に潜む小さな不思議や喜びを、静かに問いかけてきます。長く読み継がれるべき、日本の児童文学を代表するシリーズの一つと言えるでしょう。

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