この国の空 (映画)

映画『この国の空』

『この国の空』は、2015年に公開された日本の映画で、荒井晴彦が監督を務め、同名の高井有一の小説を原作としています。この映画は、戦時中の1945年の日本を舞台に、若者たちの苦悩や葛藤を繊細に描いています。

あらすじ

物語は、戦中の昭和20年に設定されています。19歳の田口里子は、東京・杉並にある自宅で母親と共に生活を送っていました。彼女の父親は結核で亡くなり、祖父が遺した借家の家賃で生計を立てている里子。日々、町内会で書類作成の仕事をしていましたが、実はその仕事は挺身隊から逃れるための簡単なものでした。もしも戦争がなければ、彼女は素敵な家に嫁ぐ話が舞い込んでいたかもしれません。しかし、当時の日本では、結婚相手となる男性が不足し、思い描いていた未来が遠く感じられる状況でした。

里子の隣家に住む市毛猛男は、妻子を疎開させて一人暮らしをしている銀行員です。彼は健康であるものの、徴兵検査で失格となっており、38歳通りに兵隊に取られることを恐れて日々を過ごしていました。時折、里子が彼の家を訪れることもあり、二人の距離は次第に縮まっていきます。

里子の家に転がり込む伯母の瑞枝は、横浜の空襲で家族を失い、東京へと逃げてきた人物です。しかし、当時は転入者への配給がされず、生活は困難を極めます。町の状況を憂う里子は、市毛が銀行での業務の関係で宿直が増えるため、これを利用して彼の家を手伝うことになります。これが彼女の日常生活の中での小さな動きになっていくのです。

ある日、里子は市毛に誘われ、隠れた場所で買い出しをすることになります。この買い出しでは、ヤミ米の情報も得ており、物資不足の時代を予感させます。途中、休憩した神社で市毛と親密な関係になる瞬間が訪れ、彼との情熱的な出会いは彼女の心に大きな影響を与えます。だが、戦争が終わる兆しが見え始め、彼女の家庭には変化が迫ります。

市毛は、勝手ながら自らの家族が疎開から戻ることを理解しつつも、里子に対して愛情を伝えます。しかし、彼女は「私の戦争は、これから始まる」と語り、戦後の厳しい現実に直面するのを覚悟しています。里子の中での内なる戦いが、戦争の終息と共にどのように続いていくのか、それがストーリーの核心となります。

受賞歴とスタッフ

本作は、2015年度の第89回キネマ旬報賞において、日本映画ベスト・テンで7位を獲得しました。また、読者選出ベスト・テンでも8位にランクイン。さらに、2015年の第67回読売文学賞の戯曲・シナリオ賞も受賞しており、その評価は高いものがあります。

スタッフには、監督の荒井晴彦をはじめとし、撮影の川上皓市、美術の松宮敏之、編集の洲崎千恵子など多彩な才能が集結しています。音楽は下田逸郎と柴田奈穂が担当し、作品全体に深みを与えています。また、キャストの中には二階堂ふみ、長谷川博己、工藤夕貴、富田靖子など、実力派の俳優が揃っています。

まとめ

『この国の空』は、戦争の荒波の中における若者たちの心の葛藤と愛の物語を繊細に描いた作品です。過酷な状況であっても、人間の感情や関係性が変化していく様子を目の当たりにし、観る者に深い感動をもたらすことでしょう。

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