ご令息の死に際してラ・モット・ル・ヴァイエへ捧げるソネ

ご令息の死に際してラ・モット・ル・ヴァイエへ捧げるソネ

作品情報

『ご令息の死に際してラ・モット・ル・ヴァイエへ捧げるソネ』（仏語原題：A M. La Mothe Le Vayer, sur la mort de son fils）は、フランスの偉大な劇作家として知られるモリエール（Molière, 本名ジャン＝バティスト・ポクラン、1622年 - 1673年）によって書かれたソネ（sonnet）、すなわち14行からなる定型詩です。この詩は1664年に筆が進められたとされていますが、モリエールの生前には発表されることはありませんでした。作品が初めて印刷物として世に出たのは、作者の死から数年を経た1678年のことでした。

創作の背景

このソネが捧げられた相手は、当時のフランスの著名な著述家であり思想家であったフランソワ・ド・ラ・モット・ル・ヴァイエ（François de La Mothe Le Vayer, 1588年 - 1672年）です。ラ・モット・ル・ヴァイエは、その博識ぶりが高く評価され、リシュリュー枢機卿やマザラン枢機卿といった権力者たちに重用されました。また、彼は国王ルイ14世とその弟フィリップ1世、オルレアン公といった王族の子弟の教育係を務めるなど、当時の文化・教育界で重要な役割を担った人物でした。

ラ・モット・ル・ヴァイエには一人息子がおり、彼は神父の道に進んでいました。しかし、1664年の9月、この息子がわずか35歳で急逝するという悲劇に見舞われます。息子を亡くした父の深い悲しみを知ったモリエールは、彼を慰め、その喪失感を分かち合うためにこのソネを創作しました。作品には、友人ともいえるラ・モット・ル・ヴァイエへの共感と、亡くなった息子への追悼の気持ちが静かに込められています。これは、主に喜劇作家として知られるモリエールが、個人的な感情や人間関係に基づいて詩作を行った稀有な例と言えるでしょう。

特徴と後世への影響

前述の通り、このソネは書かれてから長らくの間、公にされることはありませんでした。モリエールの没後、1678年に刊行された彼の遺稿集のような形で初めて発表されたと考えられています。これは、この詩が一般的な文学作品としてではなく、ラ・モット・ル・ヴァイエ個人に宛てた私的な書簡に近い性格を持っていたためかもしれません。

興味深いことに、このソネの一節はモリエールの別の作品に再利用されています。具体的には、1671年に初演された、モリエールとピエール・コルネイユ、フィリップ・キノーが共同で制作した豪華なオペラ＝バレ『プシシェ』（Psyché）の中に、このソネの第2節がほぼそのままの形で組み込まれています。これは、一つの創作物から生まれた言葉や感情が、別の作品世界へと引き継がれ、新たな文脈の中で生き続けるという、作家の創造プロセスにおける興味深い一例を示しています。

日本語での参照

このモリエールによるソネの日本語訳は、日本国内では臨川書店より刊行されている『モリエール全集』の第4巻に収められています。秋山伸子氏による翻訳が掲載されており、フランス文学の研究者や愛読者がこの詩に触れるための貴重な機会を提供しています。全集の第4巻は2000年に出版されており、そのISBNコードは4-653-03714-0です。

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