しあわせカモン

しあわせカモン

2009年に制作され、2013年に広く公開された日本のドラマ映画。シンガーソングライター・松本哲也の自伝『空白』を原作とし、松本本人とその母・扶美江の人生をモデルに描かれている。

本作は、当初2009年に岩手県内で1週間のみの限定公開となった後、一度はお蔵入りとなっていた。しかし、2011年開催の「お蔵出し映画祭」でグランプリを受賞したことをきっかけに注目を集め、2013年1月26日より東京都内での正式な劇場公開が決定するという、異例の公開経緯を辿った作品である。

物語は1970年代の岩手県水沢市で幕を開ける。「幸せになりたい」と願い続けた少女、扶美江（鈴木砂羽）は、夜の仕事を経てヤクザの哲夫（今井雅之）と結婚し、息子・哲也を授かる。哲也を溺愛する一方で、荒れた暮らしの中で扶美江は覚醒剤に溺れ、やがて中毒患者として病院に入院する。

退院後、父の助けで哲也（幼少期：高橋至恩）と共に実家に戻るが、禁断症状により再び入院。哲也は児童相談所の指示で児童養護施設に預けられ、母子は哲也が小学校を卒業するまで離れて暮らすこととなる。施設で孤独な日々を送る哲也は、職員が弾くギターに夢中になる。一方、扶美江のもとには、刑務所にいる哲夫から離婚届が届く。寂しさから再び薬物に手を伸ばしかける扶美江だったが、勤務先の店の客・秀行（三浦誠己）に救われる。秀行自身も薬物依存の経験者だった。

数年後、母子がついに一緒に暮らせる日が訪れる。中古のギターを抱え、希望を胸に母のアパートを訪れた学生時代の哲也（高橋賢人）が見たのは、母が新しい男・秀行に寄りかかっている姿だった。毎晩、派手な格好で仕事に出かけ、酔って帰宅する扶美江に失望した哲也は非行に走り、傷害事件を起こして教護院送致となる。この頃、哲也は母に心ない言葉を浴びせ、母子の関係はさらに険悪になる。

再び離ればなれになった母子。扶美江は哲也の事件の罰金を支払い、秀行と別れて一人で生活を立て直す。教護院にいた哲也は、音楽教師の堀江（沢田亜矢子）にギターの才能を見出され、ミュージシャンになる夢を温め始める。中学卒業と同時に東京の中華料理店に就職が決まった哲也は、上京して音楽の道を志す決意をする。

時が流れ、扶美江は孤独と闘いながらも、東京で音楽に打ち込む成人した哲也（石垣佑磨）からの便りを支えに生きる。母子の間のわだかまりは徐々に和らぎ、やがて哲也からメジャーデビューの知らせが届く。「母さんを幸せにするから」という息子の言葉に喜びを噛みしめる扶美江。しかし、長年の薬物依存は彼女の心と体を蝕んでいた……。

薬物、貧困、非行といった過酷な現実の中で、それでも断ち切れない母子の絆、そして音楽への希望を描いた感動的な作品。

主なキャスト
松本扶美江：鈴木砂羽
松本哲也：石垣佑磨、高橋賢人、高橋至恩
松本哲夫：今井雅之
堀江通代：沢田亜矢子
秀行：三浦誠己

スタッフ
監督・脚本：中村大哉
製作総指揮：石田裕一郎

主題歌
「ユキヤナギ」：松本哲也

困難な状況でも希望を見出し、生きる人々を通して、「しあわせ」の意味を問いかける物語である。

もう一度検索