せせらぎ (グレープのアルバム)

グレープ『せせらぎ』

フォークデュオ、グレープによって1975年5月25日に世に送り出された『せせらぎ』は、彼らにとって2枚目のオリジナル・アルバムにあたります。同年の3月にリリースされた先行シングル「ほおずき」とそのB面曲「残像」、そして前年1974年10月のシングル「追伸」とそのB面曲「ひとり占い」（こちらは前作『わすれもの』収録）といった既発表曲を含みつつ、新たな楽曲で構成された全12曲が収められました。

アルバム発表当時、カセットテープというメディアの普及期でもあったことから、本作は前作『わすれもの』と合わせて一本のカセットに収録される企画「2 for 1」としてリリースされた時期もありました。この企画版では、『わすれもの』がA面に、『せせらぎ』がB面にそれぞれ収録されており、曲順もオリジナルLPとは異なっていました。

収録曲

SIDE 1

ほおずき
1975年3月にシングルとして発表された楽曲です。B面には同じく本作に収録されている「残像」が配されました。さだまさしはこの楽曲に自信を持っていたようですが、残念ながら大きなヒットには至りませんでした。

殺風景
恋愛関係において、他に好きな相手ができたために別れを告げる女性の、ある種ドライな心情を歌い上げた作品です。後にさだまさしのアルバム『随想録』に収録された「敗戦投手」では、この曲の歌詞の一部がパロディのような形で引用されています。現在でもさだまさしのコンサートで披露される機会が多い楽曲ですが、若き日に書いた「あなたより好きな人が出来ただけのことです」というストレートな歌詞に対し、近年のライブ（例えば3333回記念コンサートのライブアルバム『3333』など）では「ひどいね」と自らを省みるコメントを残しています。

ゆだねられた悲しみ
作詞・作曲は、グレープのもう一人のメンバーである吉田正美が手掛けた楽曲です。編曲は瀬尾一三が担当しました。

女郎花
デビューアルバム『わすれもの』に収められた「紫陽花の詩」に続くような、和のテイストを持ったフォークソングです。グレープ自身が編曲を手掛けています。

残像
グレープがまだアマチュアとして活動していた時期から特に人気の高かった楽曲の一つで、「ほおずき」のシングルB面にも収録されました。編曲は青木望によるものです。

交響楽（シンフォニー）
歌詞の中に「ワグナーの交響楽」というフレーズが登場しますが、これは一般的な意味での「交響曲」（シンフォニー）を指すものではないと、さだまさしは説明しています。ワーグナーは純粋な「交響曲」を書いていないとされつつも、「シンフォニー」という言葉は管弦楽全般を指す場合があることから、マーチやオペラなども含めた「交響楽」という意味でワーグナーの音楽を捉えているとのこと。曲のタイトル表記が「交響曲」ではなく「交響楽」とされているのも、そうした意図に基づいています。編曲は服部克久が手掛けました。

SIDE 2

ラウドネス
吉田正美作曲による楽曲で、歌のないインストゥルメンタル・ナンバーです。

絆
編曲は瀬尾一三が担当しました。

風邪
楽曲のアレンジは、アントニオ・ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集『和声と創意への試み』の中の「冬」の第2楽章を基に構成されています。コーラスには、当時同じ事務所に所属していたフォークグループ「クラフト」の三井誠、森谷有孝、浜田金吾が参加。楽曲のラストで聴かれるくしゃみも、同じくクラフトのメンバーである松藤一美によるものです。編曲はさだまさし自身が行いました。

恋人擬
フィドル風のヴァイオリン演奏を取り入れた、カントリーミュージックの雰囲気が漂う作品です。編曲はあかのたちおが担当しました。

掌
後に歌手の森山良子がカバーし、さらに2008年には彼女の息子である森山直太朗もこの曲をカバーしています。編曲はさだまさしによるものです。

追伸
1974年10月にシングルとして先行リリースされていた楽曲です。B面には前作『わすれもの』からのシングルカットとなる「ひとり占い」が収録されていました。こちらも「ほおずき」と同様、大きな商業的成功には繋がりませんでした。グレープ自身が編曲を手掛けています。

参加ミュージシャン

本作の制作には、以下のミュージシャンたちが参加し、グレープのサウンドを支えています。

ギター：水谷公生、矢島賢
ベース：岡沢章
ドラムス：田中清、鈴木二郎
キーボード：羽田健太郎、市川秀男
* コーラス：クラフト

再発盤などの変遷

先に触れたカセット企画「2 for 1」では、オリジナルLPとは大幅に曲順が変更されていました。具体的には、「ほおずき」「恋人擬」「絆」「交響楽（シンフォニー）」「ゆだねられた悲しみ」「女郎花」「追伸」「掌」「ラウドネス」「残像」「殺風景」「風邪」という順序で収録されています。1985年に初めてCD化された際も、このカセット企画と同じ曲順でリリースされましたが、1991年の再発盤でようやくオリジナルLPの曲順に戻されました。

また、1985年盤と1997年盤のCDには、プリエンファシス処理が施されていました。これは高音域を持ち上げる処理のことで、再生機器側で補正を行うことが前提とされたものです。2005年に再リリースされた際には、デジタルリマスタリングが施され、音質が向上しました。さらに、この盤ではオリジナルLPに付属していた、さだまさし自身による各曲解説なども歌詞カードに追加され、資料性が高まっています。

『せせらぎ』は、デビューから間もないグレープが、フォークというジャンルを基盤としながらも、多様なアレンジや世界観を取り入れ、アーティストとしての幅を広げつつある時期の記録と言えるでしょう。後の彼らの活動へと繋がる重要なステップとなったアルバムです。

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