それで自由になったのかい
日本のフォークソング界において、「フォークの神様」と称される岡林信康が、アングラ系インディーズレーベルのURCレコードから発表したシングル、『それで自由になったのかい』と『手紙』は、彼のキャリアの中でも特に重要な位置を占める作品です。
このシングルは、発表形態においてユニークな歴史を持ちます。最初に1970年5月に発売された際は、A面に「それで自由になったのかい」、B面に「手紙」が収録されていました。しかし、約一年後の1971年4月25日に再発売された際には、収録曲のAB面が逆転し、「手紙」がA面、「それで自由になったのかい」がB面となりました。さらに、この1971年盤では、アーティスト名義も「岡林信康 with はっぴいえんど」と変更されています。この複数回の発売形態は、当時の社会情勢や楽曲の持つメッセージ性、あるいは戦略的な意図など、様々な背景があったことが推測されます。近年では、URC時代に岡林とはっぴいえんどが共同で制作した7インチシングルをまとめたボックスセット『岡林信康withはっぴいえんど 7インチBOX』に復刻収録され、再び多くのリスナーに聴かれる機会を得ています。
収録曲である「それで自由になったのかい」は、1970年に行われた『第2回全日本フォークジャンボリー』での白熱したライブ演奏を収録した実況録音音源です。約9分20秒という、一般的なシングルレコードとしては非常に長い演奏時間であったため、通常の45回転ではなく、LPレコードと同じ33 1/3回転で製造されました。楽曲のメッセージは、当時の日本が高度経済成長のただ中にあり、物質的な豊かさを享受する一方で、自由や人間性が失われていく社会状況への強い問いかけです。岡林は、現状に満足し、ある種の「監獄」の中に安住しているように見える人々に対し、そこから抜け出し、主体的に立ち上がるよう促すようにこの歌を創り、歌いました。演奏には、当時のロック・シーンを代表するバンドであり、後に伝説となるはっぴいえんど（鈴木茂、大滝詠一、細野晴臣、松本隆）が参加しており、彼らの圧倒的な演奏力が岡林のメッセージに更なる強度を与えています。
もう一方の収録曲「手紙」は、日本の社会が抱える根深い差別問題に真正面から向き合った、痛切な内容の楽曲です。この歌は、愛する男性と共に祖父から受け継いだ店を営み、幸せな未来を夢見ていた女性が、結婚が「部落差別」という壁によって打ち砕かれてしまう悲劇を、当事者の視点から克明に描いています。歌詞は、被差別部落出身の女性、中島一子氏が遺した遺書を元に、岡林信康が加筆・構成して完成したものです。制作過程では、フォーク・クルセダーズのメンバーであった加藤和彦氏の協力も得られたとされています。この楽曲のタイトルは、当初「ある女の遺書」「ある女の手紙」といった候補を経て「手紙」に決定したと言われています。このシングルに収録されたバージョンは、1969年7月5日および12月6日にアオイスタジオで録音されたもので、既発のアルバム『わたしを断罪せよ』に収録されたギター一本の弾き語りバージョンとは異なり、ベースギターが加えられています。ベースの低音が加わることで、歌詞が持つ悲しみや絶望感がより一層強調され、聴き手に重く突き刺さるような印象を与えます。
「手紙」は、そのあまりに直接的な歌詞ゆえに、発表当時大きな社会的反響を呼びました。歌詞に「部落」という言葉が明示的に含まれていたことから、部落を指す隠喩を用いたことで放送禁止歌（自主規制）となった「竹田の子守唄」をはるかに凌ぐ、「超Aランク」の放送禁止歌として、多くのメディアから敬遠されました。しかし、そのメッセージの重要性は失われることなく、後世に語り継がれています。2000年に放送された森達也氏制作のドキュメンタリー番組『放送禁止歌〜唄っているのは誰?規制するのは誰?〜』のエンディングにおいて、テレビ史上初めて映像なしでこの曲がフルコーラス放送されたことは、その歴史的な意義を示す出来事でした。番組制作者である森氏は、岡林本人への取材を試みましたが、直接の返答は得られなかったと述べています。
このシングルに収録された二つの楽曲、「それで自由になったのかい」と「手紙」は、それぞれ異なるアプローチながらも、当時の日本社会が抱えていた歪みや矛盾、そして人間の尊厳に関わる問題を鋭く指摘し、リスナーに強い衝撃と問いかけを与えました。アジテーターとして、あるいは共感者として、岡林信康が時代の空気と向き合い、音楽という形で表現した軌跡が、この一枚のシングルには凝縮されており、日本のフォークソング史、ひいては社会運動と音楽の関係を語る上で欠かせない、極めて重要な作品と言えるでしょう。
このシングルは、発表形態においてユニークな歴史を持ちます。最初に1970年5月に発売された際は、A面に「それで自由になったのかい」、B面に「手紙」が収録されていました。しかし、約一年後の1971年4月25日に再発売された際には、収録曲のAB面が逆転し、「手紙」がA面、「それで自由になったのかい」がB面となりました。さらに、この1971年盤では、アーティスト名義も「岡林信康 with はっぴいえんど」と変更されています。この複数回の発売形態は、当時の社会情勢や楽曲の持つメッセージ性、あるいは戦略的な意図など、様々な背景があったことが推測されます。近年では、URC時代に岡林とはっぴいえんどが共同で制作した7インチシングルをまとめたボックスセット『岡林信康withはっぴいえんど 7インチBOX』に復刻収録され、再び多くのリスナーに聴かれる機会を得ています。
収録曲である「それで自由になったのかい」は、1970年に行われた『第2回全日本フォークジャンボリー』での白熱したライブ演奏を収録した実況録音音源です。約9分20秒という、一般的なシングルレコードとしては非常に長い演奏時間であったため、通常の45回転ではなく、LPレコードと同じ33 1/3回転で製造されました。楽曲のメッセージは、当時の日本が高度経済成長のただ中にあり、物質的な豊かさを享受する一方で、自由や人間性が失われていく社会状況への強い問いかけです。岡林は、現状に満足し、ある種の「監獄」の中に安住しているように見える人々に対し、そこから抜け出し、主体的に立ち上がるよう促すようにこの歌を創り、歌いました。演奏には、当時のロック・シーンを代表するバンドであり、後に伝説となるはっぴいえんど（鈴木茂、大滝詠一、細野晴臣、松本隆）が参加しており、彼らの圧倒的な演奏力が岡林のメッセージに更なる強度を与えています。
もう一方の収録曲「手紙」は、日本の社会が抱える根深い差別問題に真正面から向き合った、痛切な内容の楽曲です。この歌は、愛する男性と共に祖父から受け継いだ店を営み、幸せな未来を夢見ていた女性が、結婚が「部落差別」という壁によって打ち砕かれてしまう悲劇を、当事者の視点から克明に描いています。歌詞は、被差別部落出身の女性、中島一子氏が遺した遺書を元に、岡林信康が加筆・構成して完成したものです。制作過程では、フォーク・クルセダーズのメンバーであった加藤和彦氏の協力も得られたとされています。この楽曲のタイトルは、当初「ある女の遺書」「ある女の手紙」といった候補を経て「手紙」に決定したと言われています。このシングルに収録されたバージョンは、1969年7月5日および12月6日にアオイスタジオで録音されたもので、既発のアルバム『わたしを断罪せよ』に収録されたギター一本の弾き語りバージョンとは異なり、ベースギターが加えられています。ベースの低音が加わることで、歌詞が持つ悲しみや絶望感がより一層強調され、聴き手に重く突き刺さるような印象を与えます。
「手紙」は、そのあまりに直接的な歌詞ゆえに、発表当時大きな社会的反響を呼びました。歌詞に「部落」という言葉が明示的に含まれていたことから、部落を指す隠喩を用いたことで放送禁止歌（自主規制）となった「竹田の子守唄」をはるかに凌ぐ、「超Aランク」の放送禁止歌として、多くのメディアから敬遠されました。しかし、そのメッセージの重要性は失われることなく、後世に語り継がれています。2000年に放送された森達也氏制作のドキュメンタリー番組『放送禁止歌〜唄っているのは誰?規制するのは誰?〜』のエンディングにおいて、テレビ史上初めて映像なしでこの曲がフルコーラス放送されたことは、その歴史的な意義を示す出来事でした。番組制作者である森氏は、岡林本人への取材を試みましたが、直接の返答は得られなかったと述べています。
このシングルに収録された二つの楽曲、「それで自由になったのかい」と「手紙」は、それぞれ異なるアプローチながらも、当時の日本社会が抱えていた歪みや矛盾、そして人間の尊厳に関わる問題を鋭く指摘し、リスナーに強い衝撃と問いかけを与えました。アジテーターとして、あるいは共感者として、岡林信康が時代の空気と向き合い、音楽という形で表現した軌跡が、この一枚のシングルには凝縮されており、日本のフォークソング史、ひいては社会運動と音楽の関係を語る上で欠かせない、極めて重要な作品と言えるでしょう。
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