たなかゆきを

田中由きを

田中由きを氏（1927年4月26日 - 2020年10月22日）は、東京都を拠点に活動した日本の作詞家です。

生涯とキャリア

田中氏は明治大学商学部を卒業後、印刷会社の取締役を務める傍ら、明治大学付属の中学校・高等学校で教鞭を執るなど、多様な職務経験を経て作詞家への道を志しました。

1957年（昭和32年）、当時既に著名な作詞家として知られていた石本美由起氏に師事。石本氏が主宰する歌謡同人誌「新歌謡界」に準同人として参加し、作詞家としての研鑽を積む日々を送りました。この時期には、三宅立美、秋田泰治、星野哲郎、八反ふじを、松井由利夫、若山かほる、岩瀬ひろしといった、後に歌謡界で活躍する多くの作詞家たちと同門の詩友として交流を深めました。

翌1958年（昭和33年）には、キングレコードと専属作詞家契約を締結。以来、42年間にわたり同社の専属作詞家として精力的に活動を展開しました。キングレコードが専属制度を廃止した後も、フリーの作詞家としてその創作活動を意欲的に続けました。

田中氏が生涯に発表した作品は2000曲以上に上り、その創作分野は非常に多岐にわたります。日本各地の市町村歌や小中学校・高校の校歌、企業の社歌、さらに童謡、歌謡曲、新民謡など、幅広いジャンルで作品を生み出しました。特に晩年は、長唄、小唄、端唄、新内といった日本の古典芸能を基にした歌謡や、舞踊歌謡、吟詠歌謡といった分野の作詞に力を入れ、伝統文化への深い理解と愛情を作品に込めました。

主な作品

田中氏の代表的な作品には、歌謡曲として春日八郎の「長崎の女」「ロザリオの島」、大月みやこの「潮来舟」、三橋美智也の「古都の雨」、二葉百合子の「春日の局」、島津亜矢の「忠治侠客旅」など、多くの歌手によって歌われた楽曲があります。また、教育分野では茨城県立稲敷中学校や戸田市立戸田中学校などの校歌を、自治体分野では福島県会津坂下町歌や千葉県長南町歌など、多数の市町村歌を手掛けるなど、地域社会にも貢献しました。その他、照国海運（現マリックスライン）や昭和測量、コパックス、ササキグループなどの社歌も手掛けています。

業界への貢献

作詞家としての活動に加え、田中氏は音楽・作詞業界の発展と地位向上にも多大なる貢献をしました。日本音楽著作権協会（JASRAC）では評議員を務め、その在任中に監事や評議員会副議長といった要職も歴任し、著作権の保護・管理に尽力しました。また、日本作詩家協会では常任顧問として協会の運営に深く関わり、事務局長を延べ12年にわたり務めたほか、理事、常務理事、専務理事といった要職を歴任しました。さらに、日本脚本家連盟の作詞教室では講師を務め、後進の指導・育成にも情熱を注ぎました。

晩年と死去

晩年も精力的に活動を続け、亡くなる数ヶ月前にはYouTubeのインタビューに応じるなど、元気な姿を見せていました。しかし、2020年10月22日にその生涯を閉じました。92歳でした。生涯にわたり生み出された2000曲以上の作品は、日本の音楽文化に多大な足跡を残しています。

参考文献

田中由きを氏の活動を知る上で、石本美由起氏が主宰した「新歌謡界」創刊号から第171号（新歌謡界詩社発行）は重要な資料となっています。

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