てびち

てびち（てぃびち）

沖縄県において、豚の脚を指す呼称であり、またその部位を用いた伝統的な郷土料理の名称としても広く親しまれています。沖縄方言では「てぃびち」と発音されることもあります。

概要

沖縄では、豚の脚全体を総じて「てびち」と呼びます。さらに細かく部位を区別する場合もあり、脚の先の部分やひづめを「ちまぐー」、脚の上部を「ふぃさがー」と呼び分けることがあります。豚の前脚も後ろ脚もどちらも「てびち」に分類されますが、一般的にはより肉付きが良く、煮込むとふっくらと柔らかくなる後ろ脚の方が好まれる傾向にあります。

「てびち」という言葉は、特に豚足を長時間かけて煮込んだ料理を指す際に用いられることが多いです。代表的な調理法としては、余分な脂やアクを取り除くためにしっかりと下ゆでを行った後、塩や醤油などを基本とした調味料でじっくりと時間をかけて煮込みます。この下ゆでの工程により、見た目の印象に反して煮込み上がったてびちは脂っこさが抑えられ、意外とさっぱりとした味わいになります。十分に煮込まれたてびちは、骨から肉が簡単に外れ、箸でも容易にほぐれるほど柔らかくなります。そして、最大の魅力はその独特の食感にあります。コラーゲンを豊富に含むため、プルプルとしたゼラチン質の食感が楽しめます。

てびち料理は、地域で長く親しまれてきた食文化として評価され、2024年には文化庁によって「100年フード」に認定されました。これは、各地で受け継がれる食文化を顕彰する取り組みの一環です。

伝統的な煮込み料理に加え、現代ではアレンジ料理も生まれています。例えば、外はカリッと中はプルプルとした「てびち唐揚げ」などが作られています。かつて那覇市安里にあり、2022年に閉店したおでん専門店「おでん東大」では、香ばしく焼き上げた「焼きてびち」が看板メニューとして人気を博し、メディアでも頻繁に取り上げられていました。

語源

「てびち」という言葉の語源については、現在も明確には定まっていません。一説には、「手引き」という言葉が変化して生まれたのではないか、といった推測が存在しますが、確証はありません。

歴史

沖縄（かつての琉球王国）に豚がもたらされたのは、14世紀頃に中国（明朝）との交易が盛んになった時期と考えられています。これにより、豚肉は琉球王国の宮廷料理に導入され、重要な食材となりました。「てびち料理」も、当初は中国からの使節を迎える際の高級な宮廷料理の一つとして発展したとされています。時代が下るにつれて、この料理は徐々に庶民の間にも普及し、家庭料理や大衆的な食堂の定番メニューとして定着していきました。

また、沖縄には古くから「以類補類（いるいほるい）」と呼ばれる、食に対する独特の考え方があります。これは、「病気や怪我などで弱っている体の部位と同じ動物の部位を食べることで、その不調を補い、元気を取り戻す」というものです。この考え方に基づき、足腰に不安を感じる際に豚足を食べる習慣があったことも、「てびち」が沖縄の食文化に深く根付いた背景の一つと考えられています。

メディアでの登場

てびちは、沖縄を舞台にした作品にもしばしば登場します。例として、2022年に放送されたNHKの連続テレビ小説『ちむどんどん』では、第9週のサブタイトルが「てびち!てびち!てびち!!」とされ、主人公・比嘉暢子が足てびちから取った豊かな出汁を活用したおでんを開発し、経営難に陥っていたおでん屋を立て直す重要なエピソードとして描かれました。

類似料理

豚足を用いた料理は世界各地に存在しますが、「てびち」と比較されることのある料理として、ブラジルの「モコト」があります。モコトは牛の足を煮込んで作られる料理であり、沖縄で紹介される際には「ブラジル風牛てびち」と表現されることがあります。

出典：一般的に知られている情報および公開されている資料に基づいています。

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