はるがいったら

飛鳥井千砂による日本の小説『はるがいったら』は、作者のデビュー作として、第18回小説すばる新人賞を受賞した記念すべき作品です。

あらすじ

物語の中心となるのは、両親の離婚を機に別々の家庭で育った姉の園と弟の行です。互いの家族に配慮しつつ、二人は付かず離れずの距離感で交流を続けています。

姉の水原 園は23歳。デパートの受付カウンターで働く彼女は、ストイックで完璧主義な性格の持ち主です。その生真面さゆえに、自分にも他人にも厳しく、友人は少ない傾向にあります。プライベートでは、数年前から婚約者のいる幼なじみ、恭司との間に不毛な関係を続けており、その状況から抜け出せずに葛藤しています。ファッションセンスが良く、スタイルも抜群なため、周囲からはモデルのようだと評されることもありますが、内心では人間関係を冷めた目で見ている一面もあります。

一方、弟の佐々 行は高校3年生。幼い頃から病弱で入退院を繰り返しており、高校も一年遅れて入学しました。しかし元々頭脳明晰で、学業成績は優秀です。彼は、幼い頃に園と一緒に拾った愛犬ハルの介護に日々を費やしています。老齢で寝たきりとなったハルの世話は負担も大きく、自身の将来についても思い悩んでいます。建築分野に興味を持ちつつも、より広い可能性を求めて難関国立大学への進学も視野に入れています。

そんなある日、行が肺炎で入院することになります。ハルの介護ができなくなった弟のために、園は自分のアパートでハルの面倒を見ることを申し出ます。この出来事をきっかけに、別々に暮らしていた姉弟と老犬ハルとの関係は新たな局面を迎えることになります。

主な登場人物

水原 園：行の姉。完璧主義でストイックなデパート受付嬢。婚約者のいる幼なじみとの関係に悩む。
佐々 行：園の弟。病弱だが成績優秀な高校生。老犬ハルの介護と自身の進路に悩む。
ハル：園と行が幼い頃に拾った老犬。寝たきりで介護が必要な状態。
窪田 恭司：園と行の幼なじみ。広告代理店勤務。結婚間近の婚約者がいながら、園と関係を持つ。
沙織：恭司の婚約者。才色兼備だが飾らない性格のキャリアウーマン。園とも面識があるが、恭司と園の関係には気づいていない。
折笠 夏美：行のクラスメイト。行の体調や進路を案じる友人。
美佐：園の数少ない親友。園の恋愛関係に苦言を呈することも。
佐々 忍：行の義兄。高校を中退して働いている。見た目と違い、素直な性格。
佐々 真奈美：行の義母。腰が低く、「すみません」が口癖。ピアノ教師もしている。
水原 由理：園と行の実母。銀行員。キツい口調だが子供思い。元夫と真奈美の不倫に気づいていた。
* 園・行の実父：中華料理店を経営。園とは距離がある。

書籍情報

本作は、単行本として2006年1月5日に集英社より刊行されました（ISBN 4-08-774792-1）。その後、2009年1月20日には集英社文庫より文庫版も発売されています。文庫版の表紙イラストは漫画家のいくえみ綾が手掛けています（ISBN 978-4-08-746393-4）。

この小説は、現代社会で様々な悩みを抱えながら生きる姉弟が、大切な家族の一員である老犬ハルの存在を通して、互いを思いやり、自らの人生を見つめ直していく姿を繊細に描き出しています。

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