ばるぼら

ばるぼら：耽美と狂気の狭間で揺れる魂の物語

手塚治虫による大人向け漫画『ばるぼら』は、1973年から1974年にかけて『ビッグコミック』で連載されました。奇想天外な物語と、タブーとされるテーマへの大胆な挑戦は、多くの読者に衝撃を与え、現在でも高い評価を得ています。

物語の概要

主人公は、耽美派小説家として名声を博するも、異常な性衝動に苦しむ美倉洋介です。ある日、新宿で彼はアルコール依存症のフーテン娘・バルボラと出会います。美倉はバルボラを自宅に引き取りますが、彼女との関係は、次第に美倉の人生を狂気の淵へと突き落としていきます。

バルボラは、美倉のミューズであり、同時に現代の魔女のような存在。彼女の母親を名乗るムネーモシュネーという女性を通じて、美倉は黒魔術の世界に足を踏み入れます。バルボラへの強い執着を持つ美倉は、彼女との黒ミサ形式の結婚式を挙げようとしますが、警察の介入によって逮捕され、バルボラは行方不明となります。

5年後、結婚し子供もできた美倉でしたが、小説家としての成功は得られず、再びバルボラを探し求める旅に出ます。大阪でバルボラによく似た女性・ドルメンと出会いますが、彼女は美倉の記憶を持たず、二人は別々の道を歩みます。しかし、美倉のバルボラへの執着は消えることなく、やがて彼はドルメンを誘拐して逃亡します。逃亡中にバルボラは交通事故に遭い、そのまま息を引き取ります。その悲劇的な出来事を経て、美倉は長編小説『ばるぼら』を書き上げます。

さらに数年後、『ばるぼら』は大ベストセラーとなりますが、美倉の姿は消え去っていました。物語は、美倉とバルボラ、そして彼らを取り巻く人々の運命を、残酷で美しい筆致で描いています。

主要登場人物

美倉洋介: 耽美派小説家。異常な性欲と、バルボラへの執着に苦しむ物語の中心人物。
バルボラ: アルコール依存症のフーテン娘。美倉の人生に大きな影響を与えるミステリアスな女性。
ムネーモシュネー: バルボラの母親を自称する女性。黒魔術と関わりを持つ。
甲斐: 美倉の小説を出版する出版社の社長。美倉と娘の結婚を画策する。
里見権八郎: 政治家。美倉と娘の結婚を望む。
里見志賀子: 里見権八郎の娘。後に美倉と結婚する。
* 筒井隆康: 美倉の作家仲間。黒ミサの結婚式に立ち会う。

作品の評価と影響

『ばるぼら』は、手塚治虫の他の作品とは異なる、大人向けのダークな物語として高い評価を得ています。手塚自身は本作を「デカダニズムと狂気にはさまれた男の物語」と表現し、多くの批評家や作家からも高い評価を得ています。

また、2012年には英語版のクラウドファンディングが成功し、2013年にはアイズナー賞にもノミネートされるなど、海外での評価も高いです。

映画化

2020年には、手塚眞監督、稲垣吾郎と二階堂ふみ主演により実写映画化されました。R15+指定の衝撃的な描写と、豪華キャスト、そして洗練された映像美で話題を呼び、観客動員数も3万人を突破しました。

そして…

『ばるぼら』は、単なる恋愛小説やエロティック小説ではなく、人間の欲望、狂気、そして芸術の深淵を描き出した作品です。美倉の破滅的な人生を通して、読者・観客は人間の心の闇と、その美しさに直面することになるでしょう。手塚治虫の晩年の傑作と言えるでしょう。

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