ひとひら (今井美樹の曲)

今井美樹の音楽キャリアにおいて、通算28作目のシングルとして発表された「ひとひら」は、2009年10月28日にEMIミュージック・ジャパンより届けられました。この時期の彼女の活動を彩る一曲であり、その後の作品へと繋がる重要な位置を占めています。

このシングルのタイトルを飾る楽曲「ひとひら」は、作詞と作曲をシンガーソングライターの川江美奈子が担当しています。情感豊かな言葉選びと美しいメロディラインで知られる川江美奈子の筆致は、今井美樹の持つ叙情的な歌声と見事に融合しています。編曲は多くのアーティストの作品を手掛ける河野圭が担当し、楽曲の世界観を一層深めるアレンジを施しています。この「ひとひら」は、トヨタ自動車のミニバン「アイシス」のCMソングとして使用されました。「Link-up CM」と銘打たれたこのコマーシャルは、家族の絆や日常の風景を描き出す内容であり、そこに流れる「ひとひら」の穏やかで温かい旋律は、多くの視聴者に心地よい印象を与えました。車での移動という日常的なシーンと楽曲が結びつくことで、リスナーは自らの生活の中にこのメロディを取り込みやすく、楽曲の持つメッセージがより身近なものとして響いたことでしょう。

シングルのもう一つの大きな聴きどころは、カップリングに収録された「瞳がほほえむから with Yuji Ohno & Lupintic Five」です。この楽曲は、今井美樹が1989年に発表した代表曲の一つであり、多くのファンに愛され続けている「瞳がほほえむから」のセルフカバーバージョンです。オリジナルは岩里祐穂が作詞、上田知華が作曲を手掛けた、別れと希望を描いたバラードですが、この2009年版では、ジャズピアニスト・作曲家の大野雄二が率いるYuji Ohno & Lupintic Fiveとのコラボレーションという形で生まれ変わりました。

大野雄二といえば、「ルパン三世」シリーズの音楽を長年手掛けるなど、日本のジャズ・フュージョン界を牽引してきた巨匠です。彼と彼のバンド、ルパンティック・ファイブとの共演により、「瞳がほほえむから」は原曲の持つ切ないメロディラインを残しつつも、ジャズ特有のスウィング感やグルーヴが加わり、全く新しい解釈の楽曲として提示されています。大野雄二による編曲は、洗練されたピアノ演奏を中心に、ブラスセクションやパーカッションが織りなすダイナミックでありながらも繊細なアンサンブルが特徴です。今井美樹の成熟したボーカルが、ジャジーなサウンドに乗って、原曲とはまた異なる奥行きと表現力を獲得しており、長年のファンにとっては新鮮な驚きと喜びをもたらすとともに、新たなリスナーにもこの名曲の魅力を伝えることに成功しています。このコラボレーションは、今井美樹の音楽性が特定のジャンルにとどまらず、様々な才能と柔軟にクロスオーバーしながら進化し続けていることを証明するものでしょう。

さらに、シングルには「ひとひら」のインストゥルメンタルバージョンも収録されており、楽曲の美しい旋律と編曲の妙を純粋に楽しむことができます。ボーカルがないことで、背景に流れる楽器の響きや構成がより際立ち、楽曲の持つ雰囲気を深く味わうことが可能です。

全体として、このシングル「ひとひら」は、新たなオリジナル楽曲でCMタイアップという形で広い層にアプローチしつつ、自身の代表曲を第一線のジャズミュージシャンとの異色のコラボレーションで再構築するという、今井美樹のアーティストとしての多角的な魅力を凝縮した一枚と言えます。2009年という時期において、彼女のキャリアに新たな彩りを加えた重要な作品として記憶されています。

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