ひめゆり (ドキュメンタリー)

ひめゆり

2007年3月23日に公開された日本のドキュメンタリー映画です。太平洋戦争末期の沖縄戦において従軍看護に動員された、沖縄師範学校女子部および沖縄県立第一高等女学校の生徒たち、いわゆる「ひめゆり学徒隊」の生存者たちが語る、当時の体験談を中心に構成されたノンフィクション作品です。監督は柴田昌平。沖縄に関する平和を巡る議論とは距離を置き、あくまで証言を基に淡々と事実を伝える姿勢が特徴で、文部科学省選定作品にも選ばれています。

制作の背景と経過

これまでにも「ひめゆりの塔」など、ひめゆり学徒隊を題材にした劇映画は複数制作されてきました。しかし、これらは史実を踏まえつつも脚色が含まれており、生存者たちの実感を十分に伝えきれていないという課題がありました。ひめゆり平和祈念資料館で長年、来館者へ平和を語り継ぐ活動を続けてきた生存者たちは、高齢化が進み証言者が減少していく現状に直面。自身の体験を正確な記録として後世に残すことの重要性を痛感し、映像による記録制作を企画しました。

資料館のリニューアル事業に総合プロデューサーとして関わっていた縁から、この映像記録制作は柴田昌平監督に委ねられることとなりました。監督は、生存者一人ひとりの証言を克明に記録することを主眼に、1994年から足掛け13年という長い歳月をかけて撮影を敢行。その総収録時間は100時間を超える膨大なものとなりました。残念ながら、作品完成までの間に、証言者の中から既に3人が世を去っています。この記録作業は現在も継続されており、監督は続編の制作も示唆しています。

作品構成と特色

本作は、沖縄戦の時系列に沿った三部構成となっています。

1. 第一章：戦場動員と看護活動
2. 第二章：南部撤退から解散命令
3. 第三章：死の彷徨

中心となるのは、学徒隊生存者たちのインタビュー映像です。随所に当時の記録映像や字幕が挿入され、時間の経過や戦況、証言者についての解説が加えられます。一般的なドキュメンタリーではインタビュアーと証言者の対話形式が多いですが、本作では証言そのものに集中できるよう、インタビュアーの声は極力カットされている点が特徴です。

出演者の多くは、ひめゆり平和祈念資料館で平和を語り継ぐ活動を行ってきた人々です。撮影では、彼女たちが実際に戦禍を体験した沖縄本島南部の現場などを再訪。当時の心情や出来事を丁寧に掘り起こしていきます。その場所に立つからこそ鮮明に蘇る記憶もあり、資料館での証言だけでは語り尽くせなかった微細な感情や状況が、生々しい声で語られます。時には凄惨で残酷な証言も含まれますが、全体を通しては未来への平和への願いを強く打ち出す、希望を感じさせる作品としてまとめられています。

加えて、これまで資料館では証言する機会がなかった人々も本作への出演に応じているため、ひめゆり学徒隊の経験をより多角的な視点から捉える、貴重な映像記録となっている点も特筆されます。

上映の現状と広がり

本作の記念すべき初上映は、沖縄戦が開始され、ひめゆり学徒隊が戦場へ動員された日と同じ、2007年3月23日。沖縄の桜坂劇場での封切りとなりました。公開から時を経た現在（2024年時点）も、毎年6月23日の沖縄・慰霊の日前後に合わせ、東京のミニシアター、ポレポレ東中野などで継続的な上映が行われています。

配給は、監督の柴田昌平が代表を務めるプロダクション・エイシアが手掛けています。同社は主にテレビドキュメンタリーを手掛けており、劇場映画は本作が初めてであったため、当初は単館上映や各地での自主上映が中心でした。制作側の意向として、第三者の編集が加わることを懸念し、DVD化やテレビ放送の予定は現在のところなく、劇場での上映を鑑賞する唯一の方法としています。

劇場映画としては新人監督による作品でありながら、本作は公開以降、口コミや評価の高さによって上映館を着実に増やしてきました。作品自体の質の高さに加え、公式サイトを通じた観客募集で上映希望の声を募り、それを劇場側との交渉材料とするなど、地道な草の根的な活動が実を結んだ結果と言えるでしょう。さらに、後述する著名人の関わりも、本作が幅広い層からの注目を集める大きな要因となりました。

歌手Coccoとの関わり

沖縄出身の歌手Coccoは、その音楽活動などを通じて特に若い世代から厚い支持を得ています。彼女は故郷沖縄への深い思いを様々な形で表現しており、ひめゆりについても度々言及してきたことから、本作が若い世代に認知される上で大きな役割を果たしました。

2006年8月15日のライブMCでひめゆりの塔や資料館を訪れた際の感想を語ったことがきっかけとなり、彼女に映画の鑑賞が依頼されたというエピソードがあります。また、毎日新聞の連載エッセイ『想い事。』では、2006年11月6日付の記事で本作の鑑賞記を掲載。特に、証言者への深い感謝を表明した一文は、後に映画のサブタイトルとして採用されました（この連載をまとめた書籍も2007年8月15日に刊行）。さらに、映画の予告編ではナレーションを担当し、公式サイトなどで公開されています。これら以外にもCoccoと本作にまつわるエピソードは多く、彼女の存在が特に若い世代における本作の認知度向上に多大な貢献をしたと言えるでしょう。

受賞歴

本作はその高い評価から、国内外で数々の賞を受賞しています。

2007年（第81回）キネマ旬報ベストテン 文化映画部門 第1位
2007年（第50回）JCJ特別賞（日本ジャーナリスト会議）
平成19年度（第5回）文化庁映画賞 文化記録映画部門 大賞
2007年 日本映画ペンクラブ・ベストファイブ 文化映画部門 第1位
2007年度 全国映連賞 監督賞（全国映画鑑賞連合会）
第25回（2007年度）日本映画復興会議 奨励賞
2008年（第22回）高崎映画祭特別賞
2008年（第32回）SIGNIS JAPAN カトリック映画賞

作品データ

主題歌

「別れの曲（わかれのうた）」：作詞/太田博・作曲/東風平恵位
学徒隊が卒業式で歌うために練習していたが、動員により歌えなかった曲。

挿入歌

Gustav Mahler, Symphony No,5 in C sharp minor, Ⅳ, Adagietto

出演者（証言者）

石川幸子、大見祥子、富村都代子、本村つる、世嘉良利子、新垣世紀子、城間和子、津波古ヒサ、照屋信子、仲里正子、比嘉文子、前野喜代、宮良ルリ、上原当美子、島袋淑子、謝花澄枝、照屋菊子、与那覇百子、宮城信子、大城信子、新崎昌子、宮城喜久子

主なスタッフ

監督：柴田昌平
プロデューサー：大兼久由美、小泉修吉
撮影：澤幡正範 他
編集：加賀谷誠、柴田昌平 他
脚本：柴田昌平

製作・配給

製作：プロダクション・エイシア
共同制作：財団法人沖縄県女師・一高女ひめゆり同窓会
配給：プロダクション・エイシア
* 監修：ひめゆり平和祈念資料館

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