びっくり箱殺人事件

『びっくり箱殺人事件』

『びっくり箱殺人事件』は、日本の作家横溝正史による長編推理小説で、1948年1月から9月まで『月刊読売』で連載されました。本作は名探偵金田一耕助や由利麟太郎のようなキャラクターが登場しない点が特徴で、正統派の探偵小説とは一線を画しつつ、ディクスン・カーの影響を受けた独特の雰囲気を持っています。作中では、終戦直後の世相を反映した流行語が多数使われており、今の時代にも通じる人間模様が描かれています。

概要

この物語の舞台は東京の小劇場、梟座です。興行主任の熊谷久摩吉は、人気のパンドーラ役である紅花子が主演する一大グランドレヴュー「パンドーラの匣」の台本と演出を多才な深山幽谷に依頼します。幽谷の構想は、パンドーラが匣を開くと様々な怪物が飛び出すというもので、初日から大盛況を博します。
しかし、シアターの開幕7日目、幽谷率いる怪物団が楽屋裏で何者かに襲われ、さらにパンドーラ役を務める石丸が匣の中から出た短剣に刺されて命を落とすという殺人事件が発生します。事件が発覚すると、警察の捜査官である等々力警部が現場に赴き、調査を開始します。

あらすじ

まず、石丸の死は観客に衝撃を与え、警視庁から捜査が始まります。六助という一六新聞の記者は、幽谷の娘である恭子から元マネージャーの古川万十を追うよう指示を受けます。事件が発生した時間帯の目撃情報を集める中で、花子の代役を務める柳ミドリのグローブが懸賞に関与していたことがわかります。

捜査が進む中で、万十が「紅花子がやられた」という言葉を残し、幽谷に対する恨み言を口にします。等々力警部は、田代信吉に注目しますが、彼が夢遊病のような症状を呈していることに疑問を持ちつつも捜査を続行。そんな中、幽谷の過去と花子の悪戯が引き起こした悲劇が次第に明らかになり、疑惑が次第に深まります。

また夜の舞台では、ショーグンの死亡が報告され、劇場は混乱に包まれます。等々力警部は剣突から花子の死の目的が何であったのかを問いただし、事件の背後に潜む内幕を解明しようとします。しかし、慌ただしい状況を利用して、幽谷へ向けた新たな脅威が迫っていることを誰もが察知できていませんでした。

ストーリーが進む中で、幽谷は真犯人を追い詰めようとし、彼自身の運命が大きく変わる予感が漂います。一見陽気な舞台の裏で繰り広げられる人間のドロドロした欲望と嫉妬そのものが、本作の重要なテーマです。彼らの影にひそむ暗い事件の核心に迫るため、幽谷は果敢に挑む決意を固めます。

登場人物

• - 深山幽谷 : 多才な元・活動弁士の俳優。カリガリ博士役を演じる。
• - 深山恭子 : 幽谷の娘で、優秀なマネージャー。
• - 葦原小群（ショーグン） : フランケンシュタイン役。
• - 紅花子 : 梟座のスターで、パンドーラ役。

本作は、ミステリーが進行する中で演劇の舞台裏を描写し、悲劇的な反響をもたらす魅力的な作品です。横溝正史のスタイルを存分に味わわせる本格探偵小説の一編といえるでしょう。

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