ふるさときゃらばん

ふるさときゃらばん：日本を巡ったミュージカル劇団

ふるさときゃらばんは、かつて日本各地で活動していたミュージカル劇団です。東京都小金井市に本部を置き、「ふるきゃら」の愛称で親しまれていました。47都道府県、1200もの自治体で公演を行い、総観客動員数は430万人を超えるという驚異的な記録を打ち立てました。

特徴

彼らの公演は、単なるエンターテイメントではありませんでした。「日本人の暮らし」をテーマにしたオリジナルのミュージカルを制作し、全国を巡演することで、普段ミュージカルに触れる機会の少ない人々、例えばサラリーマンや農村地域の人々に、その魅力を届けました。テクニックよりも生命力、高尚さよりも親しみやすさを重視した作風は、多くの人々の共感を呼びました。

音楽もまた、ふるさときゃらばんの大きな魅力の一つでした。劇中の音楽はすべて生演奏で、わずか5人のオーケストラとは思えないほどの迫力と表現力で観客を魅了しました。その音楽性は、音楽関係者からも高く評価され、多くのファンを獲得しました。

1975年に山田洋次監督が制作した映画『同胞』に登場する劇団は、石塚克彦が率いるミュージカル『ふるさと』の上演チームであり、後のふるさときゃらばんの原型となりました。

歴史

1983年、劇団新制作座の流れを汲む統一劇場から独立する形で、劇団ふるさときゃらばんが誕生しました。同時期には、統一劇場から希望舞台も独立しています。旗揚げ作品である『親父と嫁さん』は、1985年に第40回文化庁芸術祭賞を受賞し、その実力を広く知らしめました。

年間約200ステージもの地方公演をこなし、ミュージカルを通じた村おこしをテーマに活動を展開。独自の人脈や地方実行委員会との連携により、公演回数だけでなく、動員観客数も10年余りで100万人を突破しました。「いつも満席のふるさときゃらばん」として、演劇界でも高く評価されていました。

当初は、農村を舞台にしたミュージカルを中心に活動していましたが、その後、「日本の屋台骨を支えてきたサラリーマン」を主人公にした作品や、親子を対象とした「環境」をテーマにした作品など、その活動の幅を広げていきました。

1990年代以降は、日米合作ミュージカルによる海外公演や、バルセロナオリンピック、日中国交正常化記念イベントなどにも参加。1999年からは、日本の棚田を守る自然環境イベントを企画するなど、舞台芸術にとどまらない幅広い活動を展開しました。

また、吉本興業の木村政雄が彼らの芝居を観劇したことがきっかけで、吉本新喜劇の再生につながるなど、他の劇団の運営にも大きな影響を与えました。

1998年には文化放送との共催で、ミュージカル体験塾を企画・制作。10年にわたる人気企画となりました。

作・演出の石塚克彦、作曲の寺本建雄、振付・主演の天城美枝、そして株式会社ふるさときゃらばんの代表取締役を務めた大内義信を中心とした制作チームは、緻密な取材活動を行い、「今を生きる日本人」をテーマにした多くのオリジナルミュージカル作品を世に送り出しました。

演劇以外の活動

ふるさときゃらばんの活動は、演劇だけにとどまりませんでした。農村を舞台にした作品を多く手がけたことや、主宰である石塚克彦の故郷への想いから、演劇以外の社会的活動も積極的に行いました。

1999年には、棚田学会を設立。全国棚田（千枚田）連絡協議会と連携し、文化財としての棚田や、水資源涵養などの多面的機能を持つ棚田の保全に尽力しました。

終焉とその後

地方公演を主とする劇団の多くが財政難に苦しむ中、ふるさときゃらばんも例外ではありませんでした。設立当初から劇団員は清貧な生活を強いられていましたが、「公演活動だけで食べていく」ことを目標に、株式会社組織とし、劇団員に給与を支払うことで安定した活動を目指しました。

しかし、世界的な経済不安の影響などからスポンサーが撤退し、経営状態は悪化。2010年2月8日、東京地裁に自己破産を申請し、倒産しました。

その後、関係者の尽力により新劇団「石塚事務所・新生ふるきゃら」が結成され、ふるさときゃらばんの演目や新作を上演しましたが、2015年に石塚克彦が死去したことに伴い、解散しました。

2016年には、元劇団員の一部が新劇団「ミュージカルカンパニーふるきゃら」を結成し、その灯を繋いでいます。

支援者たち

ふるさときゃらばんの活動は、多くの著名人によって支えられていました。山田洋次、野口久光、高平哲郎、宮本亜門といった文化人から、桂文枝、立川談志などの落語家、さらには森山眞弓、羽田孜といった政治家まで、幅広い分野の人々が彼らの活動を応援していました。

主な作品

ふるさときゃらばんが生み出した作品は、多岐にわたります。カントリーミュージカル、サラリーマンミュージカル、おとなとこどものファンタジーミュージカル、パブリックミュージカルなど、様々なジャンルの作品を通じて、日本人の暮らしや社会を描き出しました。

主な作品と受賞歴

ふるさときゃらばんは、日本の演劇史に大きな足跡を残した劇団として、その名は今も語り継がれています。

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