ほとんど宗教的な畏怖

「ほとんど宗教的な畏怖」（An Almost Religious Awe）は、アメリカのテレビドラマシリーズ『ウォッチメン』の第1シーズンにおける第7話として制作されました。このエピソードは2019年12月1日にHBOで初放送され、物語の根幹に関わる衝撃的な真実が明らかになる、シーズンでも特に重要な回となっています。

プロット概要

物語は、レディ・トリューがアンジェラ・エイバーに対してノスタルジアを用いた記憶治療を続ける場面から始まります。この治療によって、アンジェラは自身のベトナムでの幼少期に加え、不思議なことにウィルの記憶も体験することになります。やがて治療から目覚めたアンジェラは、自身が長いチューブを介して、ウィルが囚われていると思われる鍵のかかった部屋に繋がれていることに気づきます。施設内でビアンと呼ばれる女性による奇妙な心理テストを受けた後、トリューはビアンが自らの亡き母親のクローンであり、トリューがその母親の記憶をビアンに移植しているという驚くべき事実を明かします。

トリューが、数時間後に作動する予定の「ミレニアム・クロック」の起動準備を進める中、アンジェラは監視をかいくぐり、自身が繋がれていた鍵のかかった部屋に侵入します。そこで彼女が目にしたのは、チューブの先に気絶した象が繋がれている光景でした。混乱しながらもチューブを切断したアンジェラは、エレベーターで上階へと移動し、ドクター・マンハッタンが惑星火星のブースに残した過去のメッセージを再生する球体装置を発見します。そこに現れたトリューは、自身もそのメッセージを聞いたことを認め、さらにドクター・マンハッタンは火星ではなく、人間の姿に変装してタルサに潜伏していることをアンジェラに告げます。トリューは、極右過激派組織である「機兵隊」（セブンス・カヴァルリー）がマンハッタンを捕獲・破壊し、その力を我が物にしようと企んでいることを知っており、自らのクロックを作動させることで人類を救済できると主張します。

事態の急変に動揺したアンジェラは、隙を見て施設からの脱出を試み、見張りを突破して逃走に成功します。自宅に駆け戻ったアンジェラは、ハンマーを探す自身の姿を夫のカルに目撃されます。アンジェラは常にカルを夫として深く愛してきましたが、この時初めて彼を本名の「ジョン」と呼び、深刻な問題に直面していることを告げると、ハンマーで彼の頭部を強く殴打します。アンジェラがカルの頭部から小さなディスクを取り出すと、彼の身体は青い光を放ち始め、カルがドクター・マンハッタンの隠された姿であったことが明らかになります。

一方、FBI捜査官のローリー・ブレイクは、失踪したウェイド・ティルマン（ルッキンググラス）の自宅へと向かいますが、彼を発見できませんでした。しかし、そこで倒れている複数の機兵隊員の遺体を確認し、その情報を同僚のピーター・ペティ（Petey）に伝えます。ローリーは、以前ノスタルジア中毒で錯乱状態にあったアンジェラが口にした譫言から、ジャッド・クロフォードと機兵隊の関連性を察知し、彼の妻であるジェーン・クロフォードを訪ねます。そこでローリーはジェーンが機兵隊の協力者であることを確信しますが、直後に拘束されてしまいます。機兵隊の本拠地に連行されたローリーは、首謀者であるジョー・キーンJr.から、彼らがドクター・マンハッタンを捕らえるために用意した、まるで神を閉じ込めるかのような特殊な檻を見せられます。

また、僻地の屋敷では、エイドリアン・ヴェイト（オジマンディアス）が、自身が引き起こした大量のイカによる無差別攻撃と、多数のフィリップス及びクルックシャンクス（彼の使用人兼クローン）を虐殺した罪により、狩猟監督官によって365日間の審理にかけられます。ヴェイトには弁明の機会が与えられますが、彼はこれに対し奇妙にも屁で答えるだけです。狩猟監督官は、ヴェイトを裁く「対等」な存在として、ヴェイトがイカ事件で虐殺した家畜たちの象徴である豚の群れを陪審員として部屋に入れ、彼に有罪判決を宣告します。

製作の背景

このエピソードの最大の衝撃は、アンジェラの夫であるカル（演：ヤーヤ・アブドゥル＝マティーン2世）の正体が、宇宙的な存在であるドクター・マンハッタンであったという事実が明かされた点にあります。ショーランナーのデイモン・リンデロフは、シリーズ構想の初期段階からアンジェラを中心に物語を進めることを決定しており、原作のキャラクターを再利用する際には、アンジェラの物語を補強する形を模索しました。ドクター・マンハッタンを登場させる方法を検討した結果、彼がアンジェラの人生における「愛」の側面を担う存在、つまりカルというキャラクターとして描かれるというアイデアに到達しました。カル役のキャスティングにあたっては、カルとしての資質だけでなく、後にドクター・マンハッタンであることが明かされる役柄に必要な深みを持つ俳優を探しました。リンデロフは、ドラマ『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語|ハンドメイズ・テイル_侍女の物語』におけるヤーヤ・アブドゥル＝マティーン2世の演技に感銘を受け、自身のアイデンティティに何か違和感を感じているカルという複雑な役柄を演じきれると感じました。また、アブドゥル＝マティーンとアンジェラ役のレジーナ・キングとの間には、スクリーン上で強い相性が生まれることも決め手の一つとなりました。アブドゥル＝マティーン自身は、当初カルの役柄が将来的に何かを示唆している程度の認識だったと述べており、リンデロフとの共同作業の機会を得るために役を引き受けたといいます。リンデロフは、シリーズの第2話と第3話の撮影の間に、カルがドクター・マンハッタンであるという事実をアブドゥル＝マティーンに伝えました。一方、レジーナ・キングは、第3話と第4話の脚本を読むまでこの驚くべき事態を知らされておらず、カルの行動が脚本上でどのように描かれているかを不審に思ったことをリンデロフに伝えて初めてその真相を知ったとされています。

リンデロフや批評家たちは、このエピソード以前に張り巡らされていた伏線についても指摘しています。例えば、カル自身の台詞の中には、まるでドクター・マンハッタンが話しそうな哲学的、あるいは示唆に富む表現が散見されました。また、ローリーがカルに対して抱いていた複雑な感情も、後付けではありますが、彼がマンハッタンであったことを示唆する要素と見なすことができます。さらに、第2話「彼女は宇宙ゴミに殺された」に登場したローリーの巨大なバイブレーターは、補足資料として公開された公式サイト「Peteypedia」で、その製作者であるダニエル・ドレイバーグによって「Excalibur」（エクスカリバー）と名付けられていたことが明かされています。リンデロフはこの名称が「Ex-Cal Abar」（元カル・エイバー）という言葉遊びであることを示し、ローリーと、かつてアンジェラの夫（カル）として生きていたマンハッタンとの過去の関係性を暗に示すイースターエッグであったことを解説しました。

エピソードのタイトルである「ほとんど宗教的な畏怖」は、原作コミックのドクター・マンハッタンの回想シーンから引用されています。これは、アメリカがベトナム戦争に勝利した際に、降伏したベトナム兵がマンハッタンに対して示した反応を形容した言葉であり、マンハッタンという存在が人々に与える畏敬の念を表現しています。

評価と反響

批評家からの反応は概ね肯定的なものでした。レビュー集計サイトRotten Tomatoesでは、26件のレビューに基づいて支持率92%を獲得し、平均評価は10点満点中8.05点となりました。同サイトの批評家コンセンサスでは、「前話ほど強力ではないかもしれないが、『ほとんど宗教的な畏怖』は、『ウォッチメン』がクライマックスに向けて予測不能な展開を見せる中で、デイモン・リンデロフが視聴者の期待に挑戦することを恐れていないことを証明している」と評価されています。初放送時の視聴者数は推定77万9000人でした。このエピソードは、シリーズ全体の評価を高め、後の展開への期待感を大きく高める役割を果たしました。

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